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第17話 内緒話。

 昔から感じていた。 自分は他の連中とは違う。中学の時、同じ部活の男が隣のクラスの女子に気があるというのを他の部員に冷やかされていた。 そいつは、みるみるうちに顔が赤くなって、スポーツシャツの襟元から覗く首筋に、血の気が集まって行くのを感じる。 俺はそれを見てひどく興奮した。 触りたい。あの赤く火照った首筋に.........。 そして、本当に冷ややかな指の先を当ててしまったんだ。 タッチしたけど、そいつは特に驚く事もなく、冷たいなー、と笑っただけ。 俺がこんなに興奮しているってのに、ドキリともしないんだ?! .........それは、俺が同じ男だからか。 きっと、女子に触れられたら飛び上がってビックリするか、更に赤くなるんだろうに..........。 その時初めて気づいた。 俺は男に触れたいと思う人種。そして触れられたい。 でも、それは無理な話。男と女でグループ交際みたいになったけど、告白された女子にはいつも謝ってばかりいた。 女の子を友人以外の対象としては見られなかったから。 高校もそんな風に過ごし、美容学校に入って、初めて同じ性癖の男に出会った。 何故か分からないけれど、ひと言ふたこと言葉を交わしただけで通じるものがあって。その日のうちに俺はそいつと寝た。 カレは俺なんかよりもずっと経験が豊富で、一気に燃え上がると急降下で冷めていった。 男同士はそんなものかと、何処かでは分かっていたと思う。 高校の時、正臣と出会ってからずっと、恋心をひた隠してきた俺は、今更ゲイでした、なんて口が裂けたって云えないんだ。 フザケて抱きついたり、着替えの時にじっと背中の筋肉を舐めまわす様に見たことが、意味のあった事だなんて知られるのは耐えられない。 そんな事を心の奥底に仕舞い込んでいる俺なのに、大原さんは簡単に壁を引き剥しに来る。 飄々とした顔で、俺の守るものを曝け出させるつもりなのか?! 「ハルヨシ君さあ、昨日の彼は既婚者なんでしょ?だったら取っちゃえよ。何を遠慮してんのさ。」 「...............ぇ、...........は?........な、なに云ってんですか?」 奥のストックルームで、向かい合ってカラーリングのサンプルを作っていると、急に大原さんが云ってビックリする。 彼とは、正臣の事? 何故アイツが既婚者って分かった? 「あ、の.......どうして?」 恐るおそる訊く俺に、大原さんは笑いながら自分の手を前に差し出すと薬指を指す。 「一昨日、店に来た時、彼の指輪を見たからね。.........ちょっと意外だったよ、ハルヨシ君が不倫するなんて思ってもみなかったから。」 「え?違います!アイツはただの同級生で、会ったのだって一年半ぶりくらいで。...........ホント、違いますから..............。」 「そ?..........にしては、昨夜、正臣が~って怒りながら飲んでたんだけどな?!朝、起きないとかいろいろ愚痴ってたよ?!」 「..............それは、..........。でも、俺とアイツはそういう仲じゃないですから。それに、アイツは俺の性癖知らないんで、ゲイだってのは内緒にしてください。」 「..............へぇ、内緒かぁ、..............分かった。」 「お願いします。」 「オッケーオッケー、内緒、ね。」 - この人、ホントに分かっているんだろうか.......? 一抹の不安は拭いきれないが、それでも大原さんとは出来るだけ顔を合わさせない様にしようと思った。 それに、一週間したら正臣は俺の所から出て行くし、そうしたらもう会う事もなくなる。 .................なくなる、筈だ。

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