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第22話 迷い。

-----ガッシャ―――ン////////// 美容室の店内に流れる軽快なジャズの音色をぶち壊したのは、俺のひっくりかえしたワゴンが倒れた音。 床に散らばったスケルトンブラシやパーマに使うロットがスタイリストたちの足元に転がると、俺は慌てて床に跪きかき集めた。 「す、すみませんっ!!」 「.....大丈夫?気をつけてねー」 先輩にじろりと見られて、「はいっ、すみません。」と頭を下げる。 マイッタ----- 昨夜の事が頭から離れなくて、ぼんやり歩いていたら足元のワゴンを蹴飛ばしてしまった。 朝から本当におかしいんだ。 ボールにロットを入れて奥の洗い場に持って行く。 水道の蛇口を捻ると、大きめのボウルに水を溜めガチャガチャ揺れるロットの動きを眺めながら唇を噛みしめた。 正臣との二度目の過ちは、俺の中ではもう遊びなんて言葉では言い表せなくなっていた。 頬に落されたキスがどんな意味を持つのか..........。 それは分からないが、俺が正臣を欲しいと思った事がショックで。あの後暫く顔は見れなかった。 身体を拭かれて、そのまま背中を向けて寝てしまうと、夜中に何度も目が覚めて意識だけが背後に行く。 でも、正臣が俺の方を向く事はなかった。 朝はこっそり起きて、テレビも点けずに着替えるとさっさと部屋を後にした。 正臣の寝顔すら見るのが怖くなったんだ。 「どうかした?体調でも悪いの?」 「あ、........いいえ、すみません、うっかりしてて。」 ロットを洗う俺の横に来て、顔を覗き込んだのは大原さん。眉をキュッとあげて顔を見られると焦ってしまう。 なんか色々察知されそうで、面倒だ。 「あ、ねえ、......明日大丈夫なんでしょ?!カットモデルになってくれるって?」 それが正臣の事を指しているのは分かっている。 でも、返事に一瞬間があいてしまう。モデルは受けてくれると言われているからいいんだけど、果たして俺が普通の顔で正臣の髪に触れるだろうか.......。 「一応、モデルになってくれるって云われたんですけど................、でも、髪の毛切るほど伸びてないし..........。」 心の何処かでは、カットモデルの話はなかった事にしてもらえないかと思っていた。大原さんの手を煩わすのも悪いし、それに出来れば他の誰かになってもらいたい。 「切るのは5ミリでもいいんだよ。毛の流れを掴むのと指の動きを練習する為なんだからさ。ウィッグでやっている事を人間でやらせてもらう。そのためのモデルなんだから。」 「............はい、そうですね。一応7時には来るって云ってました。」 「なら良かった。頑張ってね!僕もちゃんと教えるからさ。」 「はい、よろしくお願いします。」 礼を云って頭を下げると、大原さんはまた店の中に戻って行った。 ふうっと溜め息をつきながら、ロットを水からあげると網のバケツに入れて乾かす。 軽くタオルで水滴を取り乍ら、俺は又ぼんやりと正臣の顔を思いだしていた。  

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