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第23話 迷いⅡ
しなやかな髪の毛にドライヤーの風を当てると、ブラシを回転させながら頭の形に沿うように、肩の所で綺麗にまとまった髪を眺めた。
艶を放つ様にするのは案外難しくて。
こういう風に纏まると、ブローのし甲斐がある。鏡の中のお客さんも自分のスタイルに見とれているようで。
とても幸せそうな顔をしてくれると、こちらも達成感を得られた。
「ハルヨシ君ってホントにこの仕事が好きなんだねぇ?!楽しそうにブローしてるから・・・」
「え?ああ、そうですね、好きですよ!楽しいし。」
そう云うと鏡の中の女性客に微笑みかける。
「ハルヨシ君、可愛いから女の子が嫉妬するんじゃない?」
そんな事を云われて、まさか、と笑うが、隣でカラーリングをしている先輩の大宮さんが、「ですよね~。やっぱり女性の眼から見ても可愛いっすよね?!」と、俺たちの話に参加してきた。
「やめて下さいよ、そんな事・・・・」
と、首を振りつつも敢えて否定はしない俺。
ゲイバーではもっぱら可愛いと云われ、結構調子に乗っている時もあった。でも、それだけ。
付き合いが続く事はないし、やっぱり同性の恋人関係は難しいんだ。
「いま、女装男子とか流行っているじゃない。ああいうの似合いそうよね?!」
「え~~~っ、勘弁してくださいよ。」
お客さんに笑いながら云うが、ホント、勘弁してほしい。
可愛いからって女装が趣味じゃないし、女になりたいと思った事はない。
「僕も昔は超可愛いって云われたんだけどな~。」
そう言って話しに参加するのは大原さんで。
「あ、確かに!ジュン君も可愛い系だわねぇ。」
「でしょ?!アハハ・・・」
心から嬉しそうに笑う大原さんの顔をまじまじと見る。
確かに顔立ちは可愛いと思う。
ちょっと雰囲気が俺に似ているっていうか、俺が大原さんに似ているって云われているんだけど・・・・
多分髪の毛のふわっとした所とか、華奢な体つき、だろうとは思う。
でも、性格は全く似ていない。
大原さんは男をたぶらかしそうだし...............。油断しているととんでもない事をやらかしそうな危うさがあった。
その点、俺はオクテっていうか...............。
慎重になり過ぎて、未だにカレシのひとりも出来ないという..............。
正臣との事がずっと頭から離れなくて、こうして仕事をしていても家に帰るのが気まずいな、なんて考えてしまう。
もっと気楽に付き合えればいいのに......。
でも、やっぱりアレはやり過ぎ。たとえ単純なヌきあいだったとしても、あんなふうに視線を絡めてしまったら変な気になる。
そうしたら、俺としてはもっと深く繋がりたいと思ってしまう訳だ。
ブローの最終仕上げを大宮さんにお願いすると、俺は会計のカウンターに行った。
そろそろ閉店の時間。刻一刻と帰宅時間が迫ってくると、俺の胸はなんだかドクドクと脈打つ。
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