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第24話 空間。
帰り道、コンビニに立ち寄って晩ご飯を選んでいたらコートのポケットの中でスマフォの着信音が鳴った。
一応周りに目をやりながら、店の奥に行って開いてみる。
それは正臣からのラインメールだった。
『今夜は帰らないので。明日は会社の帰りに7時頃店に寄る。』
簡単な短い文章で、部屋には戻らないという事を伝えているが、そもそもアイツが帰るとか、帰らないとかいう事自体変だし!
俺の部屋で、アイツは只の居候。もう自分の家に戻ればいいんだ。俺に報告はいらない。
カゴに入れた弁当をひとつ戻すと、俺はアイスクリームを選んでレジに並んだ。
正臣の晩飯の心配なんかするんじゃなかったよ...............。
風に煽られながらガサガサと煩いビニール袋を抱えて部屋に着く。
カチャリと開けた玄関から、見える場所に正臣の姿がある筈もなく。後ろ手に扉を閉めると鍵をした。
慣れた空間に目をやりながらも、心の何処かでは物足りない気がしている。
お帰りの言葉も、おでんの匂いも、何もない部屋で俺はひとりの食事をする。
いつもは気にならないテレビの音がやけに大きく感じた。誰かと話をする訳でもなく、画面の人を眺めては「何言ってんだか---」なんて、ひとりでツッコミを入れたりして……。
日曜日だし、きっと遊びに行っているんだろう。
ひょっとして、女の子でもナンパしに行ったのかも...............。
アイツの事だ、その辺のバーにでも行って口説いてんじゃないかな..............。
片づけをしながらも、なんとなく俺の心はソワソワと落ち着かない。
嫁と子供がいるくせに、遊び歩く正臣が許せなかった。追い出されるのは当たり前だ。でも、今の俺が感じている気持ちは、そんな正義感ぶったものじゃない。
これは多分、嫉妬の様なものだ。埋まらない欲を吐き出すために、他の誰かを選んだとしても、俺にはそれを止める権利はない。
自分には向けられないと分かっている正臣の気持ちを改めて認識しただけ。
ひとりでいると眠るまでの準備も早くて、俺は布団に身体を滑り込ませると枕に鼻を擦りつけた。
正臣のコロンの薫りがうっすらと感じ取れる。
それを嗅ぎながら、布団を頭からすっぽりと被った。
- 変だな、こんなに時間を持て余してる。
いつもなら何をしていただろうか。ゲームはほとんどやらないし、本も気に入れば読む程度。
正臣がいるときは、こんな気持ちにはならなかったな。
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