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第25話 待ち遠しくて。

「..................はぁ、....................」 何度も寝返りを打つが、一向に眠くならない。 それどころか、横を向くたびに昨夜は此処に正臣が居たんだと思ったら余計に腹がたった。 ムクっと上半身を起こして、シワの少ないシーツの表面を撫でる。 冷たくて何の感情も沸いてこない。ここに温もりが欲しいとか思いたいのか?!自分に問うが、力無くうな垂れて首を左右にふるふると揺らした。 俺は、シーツの上に重いパンチを打ち込むと、もう一度布団に潜り込む。頭まですっぽりかぶって目をギュっと閉じれば数を数えだした。 ----ダメだ。 一度ならず二度の過ちが、俺の脳裏に濃い影を残していった。拭い去ろうと頭を振っても取り払う事は出来ない。 今頃、何処かで女を抱いているんだろうか。 昨夜の俺との行為では、物足りなかったんだろうな。そんなバカな、女々しい事を考えてしまうと、自分が滑稽で........。 可哀そうになってくる。 布団の中で膝を抱えると、まぁるくなって眠ろうとした。 翌朝は最悪な気分で目が開くと、洗面所の鏡に映った顔を見て更に凹んだ。 そんな俺でも、美容室に入れば笑顔を作らなきゃならない。憂鬱な顔をしていたんじゃお客さんに悪いし。 それに今日はカット練習の日で。正臣が本当に来るのか分からないが、大原さんにはもしもの時でもウィッグで練習を見てもらおうと思う。 「彼、ちゃんと来てくれるんだよね?!」 「..........多分。メールでは来るって云ってましたから。」 「そ?良かった。」 「.................」 俺の肩に手を置くと、そう言って大原さんは向こうに行ってしまう。 残された俺は、不安な気持ちになった。 ポケットの中のスマフォに手を伸ばすと、メールの通知がない事に安心した。キャンセルのメールが届くんじゃないかってヒヤヒヤしているんだ。 片づけを済ませて、他のみんなが帰ってしまうと、俺と大原さんの二人が店に残った。 時計の針は7時を過ぎてしまい、俺は何度もスマフォを確認するが連絡は入らないまま。 「すみません..........、きっと仕事が詰まっているんだと思うんです。月曜日だし.............。」 正臣の仕事の内容はよく分からないが、少なくとも残業が多いってのは分かっている。 なのに、来ると言ってくれた。 もう少し待ってから電話を入れてみようと思い、取り敢えずはワゴンに置いたカットハサミとコームを腰のポーチに仕舞った。 「じゃあ、待っている間に僕がハルヨシ君の髪を切ってあげるよ。」 「え?.......いいんですか?」 「軽ーくサイドの方を切るだけ。それなら鏡越しに見られるだろ?!」 「はい、お願いします。」 大原さんにお礼を云って、すぐに椅子に腰掛けると自分で用意をした。 正臣が来ない事で、大原さんの機嫌が悪くなるかと思っていたけど、大原さんの性格が案外温厚で良かった。 店長ならこうは行かないよ。今頃怒って帰っている頃だ。 「サイドの髪は左右の角度に注意してね?!必ず両方の長さをチェックしながら切る事。でないと、ドンドン切り進んでしまう。」 「はい、.........」 大原さんのカットは軽やかで、ハサミの音が細かく刻まれて髪が薄く撫でられる様にカット出来ている。 時折両サイドのこめかみの髪を摘んでは左右のバランスをとっている。 鏡に映る真剣な眼差しが、普段のユルイ感じではなくてちょっとドキリとした。 この人がこんな真剣な眼差しで見つめる相手は誰なんだろう。 パトロンとか、いろんな噂は絶えないけど、本当に謎の多い人だ。 「どう?........大体言いたい事は伝わったかな?!」 鏡の中の俺に微笑むと肩に手を置かれた。 その顔が徐々に俺の顔に近付いて、鏡の中で二つの顔が並ぶ。 すごく緊張した俺が目を泳がせていると、ガチャリ、とドアの開く音がして二人で音の鳴る方角を見た。 「ご、めん。・・・・・・会議が長引いちゃって、」 そう言って入ってきたのは正臣だった。 コートは手に持ったまま、スーツ姿でやってくる。 「あ、.............」 と、俺の口から言葉が出て来なくて、隣で大原さんが「いらっしゃい、今日はよろしくお願いしますね。」と云ってくれた。 「こちらこそ!」 正臣の大きな通る声が閉店後の静かな店内に響くと、それまでのゆったりとした空気は一気に動きのあるものに変わった。

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