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第119話 最終話です。ありがとう!
浴槽の淵に手を掛けてゆっくり身体を沈み込ませると、その俺と向かい合う形で正臣が入って来た。
さすがにお湯は溢れてしまい、綺麗な渦が床の目地を這うように流れていく。
「いくら何でも、やっぱり男が二人ってのはキツイな。こういうのって女の子だから丁度いいのかも.....。」
俺が正臣に向かって云う。俺には経験が無いけれど、正臣はひょっとして女の子とこうして入った事があるのかもしれない。
だから入れるって言ったんじゃないのかな?
「ぁ、そうかな?オレ、女の子と入った事ないし分かんないけど。たまに涼とは入ってた。」
「お前.........、赤ちゃんと女の子と俺とじゃ、対象物が違い過ぎだろ!少なくとも俺が一番デカイし。かなり無理があるよな?!」
そう云うと正臣の顔をめがけてお湯をかけてやった。
ブハッ、、、、と顔を背けながら慌てて俺の手を掴みに来る。
掴まれた手をそのままに口を尖らせていれば、正臣は顔を前に突き出してチュッとキスをしてきた。
「あっ、不意打ち。」
正臣の顔を遠ざけようと手をかざすが、その手も掴まれてしまえばじっとしているしかない。
観念した俺に、「狭くたっていいだろ?!今度からはお湯の量を少なくして入れば水道代も浮くかも。」なんて能天気な事を云っている。
「先に躰洗っちゃえよ。俺は後からでいいし。」
正臣の手を解くと、俺はそう言って顎で促す。ここで仲良くまったりしている訳にもいかないし、のぼせたらせっかく泊った意味がないからな。
「分かった、じゃあ、先に洗う。」
正臣はさっさと髪の毛も洗ってしまうと、そのまま浴室を出て行った。
残された俺は、ひとりで浴槽に身体を伸ばすと安堵の息を吐いた。うちよりも一回りは大きなバスタブで、結構くつろげる。
二人で入るのも、たまにはいいかもしれないが、.................たまに、という事にしておこう。
俺も髪の毛と身体を念入りに洗うと、正臣が待ちくたびれない様に浴室を後にした。
- - -
髪を乾かしてから歯磨きも済ませると、部屋の方へと行く。
リビング横の部屋には布団が二組敷かれてあって、その片方にド~ンと横たわっている正臣が居た。
やっぱり今日は引っ越しで疲れているんだろうな。
少しの間にスヤスヤと寝息をたてて、気持ちよさそうに目を閉じていた。
俺はニッと口角があがって、正臣の横にしゃがみ込む。それからなんとなく正臣の頭を撫でてやった。
独りで片付けや色々、疲れただろう。
俺に早く越して来てほしいって、本当にそう願っているんだな............。
俺はスマフォを取り出すと、お客さんの予約日を確認する。
土曜日に正臣が休みの時に、引っ越しの手配をしようと思いついた。
台湾の話が無くなって、本当は一日でも早く一緒に暮らしたいと思う。それを黙っていて、後で驚かせようと思っていたのに.......。
「せっかくの嬉しい報告を聞き逃してしまったな。残念なヤツ。」
正臣の額に指をたてると呟いた。
ぅうん、.............
一瞬瞼が開いてこちらを見たのかと思ったら、また目を閉じて俺の腕を取ると安心したように眠る。
「仕方ないな、お楽しみは又今度にとっておくか......。」
正臣の隣に身体を滑りこませると、足元の布団をお腹にかけて枕もとのリモコンで部屋の明かりを消した。
隣で温もりを感じながら、ここで正臣との新しい生活が始まるのかと、ひとりで想像したら身体がフワフワと浮いてしまいそうになる。
こんな日が来る事を去年までの俺は想像も出来なかったし、まさか正臣に想われていただなんて。
正臣が俺の心に落としていった恋心。
決して成就する事は無いと思っていたのに.......。
正臣に拾われて、今度は愛も加わった。
_____明日の朝、目覚めたら先ず言おう。
俺と、ここで一緒に暮らしてください、って。.......どこにもいかないから、ずっと一緒に傍に居させて欲しい。
『迷惑でなければ__』ってね?!
____完結____
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