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桜花の声
僕の体は容赦なく細い。
「兄ちゃん!」
弟のまだ高い声に振り返る。
僕は手を伸ばし弟の手をとる。上野駅は休日なのに混雑していて、弟の手は焼けたように熱かった。
「兄ちゃんの手、冷たいね」
僕の手を彼は頬に擦り付ける。少し笑って僕も笑う。
「動物園、何がいるかなぁ?」
弟の笑顔を見ていると、僕は嬉しくなる。
手を繋いでいない方の手で、キツネを作る。
「キツネ!きっといるね!あとはなにがいるかなぁ?」
丸めた手指から、中指を伸ばし、象を真似る。
「サイ?」
僕は首をふり腕を垂らして顔の前で揺らした。
「判った!象だ!」
前歯のない口で弟がにっこり笑うとそれだけで僕は幸せになる。
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