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 ぐるぐると獣の鳴くような音が僕の腹から響く。  弟がびっくりした顔で僕を見た。  僕は腹をさすってお腹すいたねと合図する。  弟は顔中一杯の笑顔で僕を見る。  「兄ちゃんはいっつもお腹空いてる」  歌うみたいな声。  「いっぱい食べるのにやせっぽち」  にこにこ笑う。  ねー。と、君は笑う。  生まれたときから声を発しない僕を、厭うことも、避けることもなく君は笑う。  『ゲンインフメイなんでしょ』  『兄ちゃんが悪いんじゃないんでしょ』  幼い君になんど慰められたか。  「うえのどうぶつえんで、こどもいちまい、ちゅうにん、いちまい」  また君は歌う。  お母さんに教えられたとおり。  僕の代わり。  君は、僕の声がでないのは、僕のせいじゃないと言ってくれたけど。  僕にはなんだか罪悪感がある。  なんだかよく判らないけど君を見るたびに、今度は守らなくちゃって思う。  今度って、守れなかったのはいつなのかわからないのだけれど。

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