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第1話 親愛なるだれか

「はぁっ、ぅんん……も、っとぉ………」 都心から少し離れたラブホテルの一室。腕を後ろ手に縛られたまま揺さぶられる。枕に顔を押し付けて腰を高く上げる。縄が擦れて痛かったがそれよりも中を擦られることの快感の方に頭が占領される。脳みそがとろけそうだ。 「はは、可愛いね…わたるくん…」 穏やかそうに笑うこのサトウという男、声色は優しくてもどうしようもないサド男だということを俺は知っている。 「はぅ…さと、うさ……チンコの、と…ってぇ……」 もう何十分もチンコにリングをつけられているせいでイけない。熱がたまってジクジク痛い。 「だめ…我慢ね…」 そう言って自分は激しい律動を止めもしないのだから嫌な男だ。 「ああっ、…イキたい、イキた…い…おねが…」 快感と痛みで頭の中がぐちゃぐちゃになって涙が出た。段々と追い詰めるかのように律動が激しくなっていく。 「う…俺もイきそう……一緒にイこ……」 パチンとリングが外された瞬間、せき止められていたものが一気にあふれる。 「あああっ…!はぁ、ふぅっ……」 白濁した液をベッドの上にまき散らす。直後、締め付けに我慢できなかったサトウも、低いうめき声をあげてコンドームの中に精を吐き出した。 「おはよ、渉」 「はよ」 柏木渉(かしわぎわたる)、16歳。高校二年生。 新学年になって間もない春の風を浴びながら、都立高校の門をくぐる光景は、ごくありふれた日常のワンシーンである。俺は外面はいいほうだし、友人といえる存在も、いるにはいる。しかし、そんな友人たちには決して言えない秘密がある。 それは、俺がゲイだということ。そう、俺はれっきとした男だが、男しか好きになれない。 昨夜だって、出会い系で知り合ったサトウという男に尻の穴を掘られたばかりである。昨日の緊縛プレイを思い出しただけでも尻の穴が疼くレベルに、俺は不健全だ。 いくら昔よりセクシュアリティの問題に寛容になった現代とはいえ、偏見の眼がなくなることはない。幸い人を好きになったこともないので、ゲイの相手だけでことに及ぶことで俺は満足できていた。もちろん、これからもそうしていくつもりだ。 「渉ー!パス!」 二年最初の体育はバスケットボールだった。はあはあと息を切らしながら相手の間を潜り抜けていく。頭が痛い、腹が気持ち悪い。昨晩の行為による節々の痛みと単純な寝不足で完全にグロッキーだ。吐きそうになりながらパスを味方に出す。ぜえぜえと一息ついているとどうやらシュートが決まったらしい。 もう誰かと交代して休んでしまおうか、なんて考えていたら 「渉っ!」 またパスがきた。もう無理、と思いながらドリブルをして速攻を決めてシュートを打とうとジャンプをした。その時、敵のディフェンダーが俺に当たってバランスが崩れる。 「え」 左足の着地を失敗した。 「ってぇ~……」 その場に座り込んで足を抑える。捻挫をしてしまったらしい。 「ご、ゴメン…大丈夫?」 激突してきたディフェンダーが申し訳なさそうに言ってきた。 大丈夫ではない、確実に。 「おう…ちょっと捻ったみたい……わりい、ちょ抜けるわ…」 一言謝って試合を抜ける。先生に言って保健室に向かう。 ラッキーだ。ちょうど気持ち悪かったしこの後の授業さぼろうかな。 「すいません」 「ん?」 保健室に入ると、珍しく、男の養護教諭がいた。スラっとした長い脚によく似合ったスーツをまとい、その上から羽織っている白衣も、端正な顔にしっくりくる。 いい男だな。顔には出さないが、結構好きなタイプの顔だ。 「どうした?体育で怪我したのか」 「あ、はい…足捻ったみたいで」 ジャージ姿の俺を見て判断したらしい。こっちへ来い、と椅子に誘導された。 少し腫れた左足を見せるとテキパキとシップを貼って包帯を巻いてくれている。 ノンケだとはわかっていても、やはり男に素肌を触られるのは気にしてしまう。すらりと伸びた長い指が足に触れる度、興奮した。 こんないい男が、俺を抱いてくれたら。想像するだけで勃ちそうだ。きっと痛いくらいに押し付けられて穴を埋められる…感覚を思い出して尻が疼く。 どうやら包帯を巻くのが終わったらしい。先生はこれでOK、と言って今度は俺に学年やら名前やらを聞いている。どうやら保健室にきた生徒の記録をつけているようだ。まだ若いのに仕事はしっかりやるらしい。きっとここの女子生徒にもモテることだろう。 「先生は新しい保健室の先生ですか?」 「ああ、今年度からここの養護教諭だ。江藤(えとう)先生でいいぞ」 「フーン、下の名前は?」 「修平(しゅうへい)」 特に興味もなかったが、なんとなく聞いてみた。 「ねえ、江藤先生、俺朝から気持ち悪いんだけど休んでっちゃだめ?」 ここからが本題だ。 「…どうせその足じゃ体育も参加できないからな、別にいいぞ」 「いや、気持ち悪くて吐きそうだから次の時間もできれば休みたい」 あと20分しか横になれないとなるとこの倦怠感は取れそうにない。 「じゃあ熱はかって」 ハイ、と体温計を渡される。ボタンを押して脇に差し込む。 「ん?」 目の前に立つ江藤先生の声が降ってきた。 「?」 上を見上げると先生は不思議そうに俺の腕を取った。 そのまま袖を捲し上げられる。 そこには、昨日サトウによって縄で縛られ、擦れた跡がくっきりと残っていた。

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