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第2話 親愛なるだれか

「あっ……」 今日一日友人にも気づかれないように、配慮してきた。幸いまだ冬服の期間だったので、長袖で見えることはなかったし、体育の着替えだってトイレで一人でした。まさか、こんなとこで見られてしまうなんて。 「なんだこれ…」 とっさに腕を隠す。 「…いや、これは………」 どうにも良い言い訳が思いつかない。だいたい手首に縄の跡がついているのにやましいことがないことなんてあるはずないのだから。 変な空気が流れる中、ピピと体温計が鳴った。あ、と小さく呟いて焦って脇に手を差し込む。 「それ」 「?」 江藤が指さす自分の胸元を見てみると、白い肌の中に一点、ピンクに充血したキスマークが付けられていた。昨日のサトウが勝手につけていたようだ。あの野郎。 「っ……」 慌ててジャージの襟を掴んで胸元を隠す。 「…ドSな彼女……ってわけじゃなさそうだけど?」 「はは…先生ってケッコー目聡いんですね…」 全部気づかれてしまったらしい。 「ふーん……男、好きなのか?」 「……」 今まで誰にもバレたことなどなかった秘密、こんな時になんて答えればいいかわからない。 「…別に俺はなんも言えないけどさ、縛るってのはまだ早いんじゃないか」 「は…?」 …なんだこいつ、いきなりそんなこと言われる筋合いお前にはない。 「いや…まだ若いんだから、他に楽しいことなんていくらでもあるだろ」 馴れ馴れしく俺に説教なんかして、別に俺がどんな生活を送ろうと関係ないだろ。 言いたいことはいくらでもある。でもこれ以上の面倒ことはごめんだ。 「はは、そうですね、気を付けます…」 「…思ってないだろ」 「はい?」 「気を付けようって、思ってないだろ。お前」 「……なんですか?エスパーのつもりですか?」 イライラする、この男。そりゃ気を付けようなんて思うわけない。他人の言うことなんて聞いていたら、俺は生きてられない。 「そんなつもりねーよ」 江藤はため息をついて俺の手に握られた体温計をすっと抜き取っていった。体温計をじっと見つめたあと、ベッドのあるほうへ歩き出して棚を開けて布団と枕を出している。どうやら俺が寝られるようにしているらしい。 「あ、いや、俺やっぱりもう行きます…」 こんな空間にいられるほど俺は図太くない。こいつと話すのも一刻も早くやめにしたい。 「だめだ」 「は?」 「37.9°、お前熱あるぞ」 「……か、帰ります…」 「帰るってんなら、家に電話を入れるけど、いいな?」 「………」 家……。 「…嫌なら、黙ってここで寝とけ」 ほら、とベッドへ来るよう促される。渋々ベッドに足を向ける。布団の間に身体を滑り込ませ横たわると、確かに倦怠感を感じる。 「………お前まさかとは思うけどあの痕、相手は全然知らない奴、とかないよな?」 どうやら、この男は参ったことに、本当に聡いらしい。 「…そんなことないですよ」 全ての嘘が見抜かれてしまいそうで、眼を見られなかった。 きっと、どんな人間でも俺がやっていることを知ったら、気持ち悪い男だと侮蔑するに違いない。 「…そうか」 そう言ってカーテンを閉められた。 静かになった空間と、倦怠感ですぐに眠気がこみあげる。 …そういえば……あいつは、俺がゲイだって知っても、なにも言わなかったな……… ……

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