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第11話
ホテルに着いて、フロントに問い合わせた。
「すみません、昨日大宴会場で開催された忘年会はもう終了していますか?」
『はい、全ての忘年会は終了しております』
「その中でこのホテルに泊まった人はいますか?」
『いらっしゃいます』
「教えてもらえませんか?」
『個人情報なので、お教えすることはできません』
「宿泊者の中に東条蒼という者はいますか?私の夫です」
『申し訳ございません。旦那様と言え、お教えすることはできません』
さすがにこれだけの情報でおいそれと個人情報を出すわけにはいかないだろう。
ちゃんと教育が徹底されているだけある。
しかし、今はその教育が仇となった。
確かに蒼はこのホテルの中にいる。
それは確実なのだが、どこにいるのか分からない。
フロントで悶々としていると、披露宴に出席していただいた研究部部長の柊木靖雄に出会った。
『君、東条君の旦那の…』
「ご無沙汰しております、柊木部長さん。いつも蒼がお世話になっております」
『こんな夜中にどうしたんだい?』
「日付を跨ぐ前には帰ると連絡があったんですが、こんな時間になっても蒼と連絡がつかなくて…。忘年会はいつ終わりましたか?」
『九時には終了して、ホテルに泊まる者と帰宅する者に分かれたよ』
「そうでしたか…」
『ちょっと待っててくれ給え。近くに忘年会参加者がいるから聞いてくるよ』
「お手数をおかけして申し訳ありません」
『なぁに、少し待っててくれ』
そう言うと柊木はホテルのバーに消えて行った。
十分くらいだろうか。
俺には一時間くらい経ったように感じた。
柊木がバーから出てきた。
隣に女性を連れている。
『彼女が知っていると言うので連れて来た』
『東条主任でしたら、営業課の飯田さんと一緒に会場を後にするのを見かけました』
「どこに行ったか知らないですか?」
『ホテルのエレベーターに乗ろうとしていたから泊ってるとは思うんですけど…』
「そうですか…」
『私、フロントの人に何号室にいるか聞いてみましょうか?』
「先程私が聞いてみたんですが、教えてくれなくて…」
『私なら同じ会社の人間なので大丈夫ですよ。少し待っててください』
フロントで女性が聞いてくれて、ものの数分で戻ってきた。
(やっぱりダメだったんだろう…すぐ戻ってきたし…)
『二一〇七号室だそうです。これ、鍵です』
「えっ!?」
『会社の人間ってちゃんと社員証提示しておいたので教えてくれました』
「ありがとうございます」
『早く行ってあげてください』
「はい。本当にありがとうございました」
俺は急いで二一〇七号室に向かった。
ドアに付いているカードの読み取り機にカードキーを翳し、ドアのロックを解錠する。
ゆっくりドアを開けると、生臭い匂いが立ち込めていた。
明らかに事後の匂い。
(これ、違う部屋なんじゃないか?今行為の最中とかだと嫌だからな)
その思いは呆気なく砕かれた。
そろりそろりと足を踏み入れると、オレンジ色の照明で部屋全体が照らされていて、部屋のベッドには全裸で体中に痣を作った蒼が横たわっていた。
蒼の元に駆け寄った。
「あお!大丈夫か?」
「………」
「あお?おい!」
「……い…ち?」
「あお!体大丈夫か?痛い所はないか?」
「か…らだ……いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あお!落ち着けっ!」
俺は暴れる蒼をギュッと抱きしめ、蒼が落ち着くのを待った。
どれだけ待ったか分からない。
やっと蒼が落ち着いてきた。
「あお?少しは落ち着いたか?」
「うん。ごめん。いち」
「俺は平気だ。何があった?」
「営業課のエースにヤられた」
「名前は?」
「飯田航」
「分かった」
「あとね、いちに言いたいことがあるの」
「何?」
「…僕と離婚してほしい」
「どうして?」
「僕は飯田によって汚された。そんな体でいちの側にいられない」
「あおはちゃんと抵抗しただろ?」
「したよ」
「それだけで十分。俺はあおを信じてるから。だから離婚なんて絶対しない」
俺はきっぱり言い放った。
相当俺の顔がきつかったのか、蒼はそれ以降何も言わなかった。
泣き疲れたのか、しばらくするとうとうとし始めた。
「あお、もう寝ろ。これは悪い夢だから」
「そ…んな…こと…なぃ………」
体中ぐちゃぐちゃの眠った蒼の体を清めるために風呂場に湯を張り、ドロドロの体をすっきりさせる。
きれいに拭いてやって服を着させる。
タクシーを呼び、蒼を抱えてフロントで鍵を返す。
蒼が通院しているΩ専門病院に救急で受診する。
見た感じでは怪我をしている所はなさそうだが、もしものこともあるので一応受診することにした。
精神的にも肉体的にも傷ついた蒼は翌日、一日中寝ていて起きることはなかった。
こんな状態にした飯田と言う奴を俺は社会的に抹殺してやると心に決めた。
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