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第10話
side一縷
季節も廻って師走。
俺は年末の追い込みで毎日残業していて、蒼に会えない毎日だった。
蒼は師走になろうが関係なく、毎日研究に追われていた。
十二月の半ば。
俺の営業課の忘年会が行われた。
同日蒼も会社全体での忘年会が老舗ホテルの大宴会場で行われるとメールが来た。
蒼は忘年会には行くつもりはないから家で待つと言っていたが、会社の重役が揃って出席するらしいと噂を聞いたため、出席せざるを得ない状況になってしまったそうだ。
なかなか会えない毎日の中で、忘年会の翌日は二人揃って休みだった。
俺の方は一次会のみ出席するつもりだったので、先に戻って待っているからゆっくりして来いとメールしておいた。
その日の仕事はほどほどに、営業課は会社近くの居酒屋で忘年会を行った。
上司や部下と楽しい時間を過ごさせてもらい、二時間程でお開きとなった。
希望者のみで二次会をするそうで、部下が俺に声をかけてきた。
『室長も二次会行きましょうよ』
「いや、俺は遠慮させてもらうよ」
『えぇー、もっと一緒に飲みたかったのに…』
「ごめんな。家で待ってる奴がいるから」
『そっか…室長、新婚さんでしたね。すみません』
「いや、俺の方こそ付き合ってやれなくてすまん。これで楽しんでくれ」
俺は二次会の足しになるように部下達にカンパしてやった。
『いいんですか!?ありがとうございます』
「皆で楽しんできてくれ。くれぐれもほどほどにな」
『はぁーい。お疲れ様でした』
「お疲れ」
俺は皆と別れ、一人電車に乗って帰路についた。
家に着いたが、蒼はまだ帰ってきていなかった。
携帯を開くと、蒼からメールが入っていた。
【今頃楽しく飲んでる頃かな?僕の方は社長やらCEOやらトップの面々が来ていて、なかなか帰れそうにないよ。適当な所で切り上げて、なるべく早く帰るね。日付を跨ぐ前に帰りたいとは思ってる。また帰る時に電話します。 蒼】
やっぱり行っておいてよかったな、蒼。
さすがに社長やらCEOやらが出席しているのに、主任である蒼が出席しないのは今後の心象に影響する。
日付を跨ぐ前には帰りたいと言ってはいたが、これは帰ってくるのは真夜中になるだろうと思い、俺はシャワーを浴びて蒼からの連絡を待った。
日付を跨いで、午前二時。
さすがに眠くなってきた。
蒼の忘年会の会場は老舗ホテルの大宴会場と聞いていた。
こんな時間まで忘年会をするだろうか。
不安になってきた。
蒼の携帯に電話をしてみるが、電源が入っていないと機械音のアナウンスが流れた。
携帯のGPSを追跡しようとしたが、電源が入っていないから追跡もできない。
もしもの時のために持たせておいた予備のGPSで追跡してみると、ホテルを示していた。
嫌な予感がした。
急いで着替えて、GPSが示したホテルへ向かう。
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