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第14話

「…ぉ!…」 (なんだろう?遠くで一縷の声がする…) 「…ぉ?おい!」 ゆっくり目を開けると、目の前に一縷がいた。 夢なんじゃないかと思ったが、眠る前と周りの状況が変わっていないので、現実だと認識した。 「……いち?」 「あお!体大丈夫か?痛い所はないか?」 「か…らだ……いやぁぁぁぁぁぁぁ!」 「あお!落ち着けっ!」 一縷に”体”と言われて自分の体を見ると、キスマークは付いているわ、ベトベトだわ、精液の匂いがするわで、明らかに情事の後ですと言わんばかりの状態だった。 こんな姿を一縷に見られた。 それだけで気が狂いそうになった。 いくら抵抗したと言っても、他の男に抱かれた。 それは紛れもない事実。 何とか一縷の腕の中から逃げようと暴れるが、一縷の方が力が強い。 暴れ続ける僕をずっと強く抱きしめて落ち着かせてくれた。 「あお?少しは落ち着いたか?」 「うん。ごめん。いち」 「俺は平気だ。何があった?」 「営業課のエースにヤられた」 「名前は?」 「飯田航」 「分かった」 「あとね、いちに言いたいことがあるの」 「何?」 「…僕と離婚してほしい」 「どうして?」 「僕は飯田によって汚された。そんな体でいちの側にいられない」 「あおはちゃんと抵抗しただろ?」 「したよ」 「それだけで十分。俺はあおを信じてるから。だから離婚なんて絶対しない」 一縷はきっぱり言い切った。 離婚しないと。 一縷から言われたら辛いから僕から言い出したのに。 こんな汚い体の僕でも一縷は信じてくれた。 それがすごく嬉しかったと同時に辛かった。 こんなに愛してくれる人に心配をかけたことを。 思いっきり泣いたからか、うとうとしてしまった。 「あお、もう寝ろ。これは悪い夢だから」 「そ…んな…こと…なぃ………」 一番安心する一縷の腕の中にいると頭がやっと理解したのか、ゆっくり深い眠りについた。 もう一縷がいないと僕は生きていけない。 次に目が覚めた時には、見知らぬ天井が広がっていた。 隣には一縷がいる。 夜の出来事は全部悪い夢だったのかと思い、着替えようとパジャマを脱いだ瞬間、体中に付けられたキスマークが目に入った。 『あの出来事は夢じゃない』 そう無数に付けられたキスマークが主張しているようだった。

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