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第21話

side蒼 あれから僕は何も変わっていない。 半日以上寝続けている。 全然運動をしていないので、筋肉が一気に落ちた。 それ故、少しの動作で息切れが生じ始めた。 さすがに自分自身でもヤバイと思い始めた時に一縷から受診しないかと提案された。 僕が起きていられる時間は限られているから、その範囲内でならいいと了承した。 そして、今日受診する。 久々に着替えて、タクシーで病院まで向かう。 予約なしでの受診だったので、待ち時間がすごいことになってしまったようだ。 僕は順番待ちの間に寝てしまったようだ。 寝ていると、どこからか女の人の声が頭の中に響いてきた。 『あなたの目の前に、カレンダーがあります。ページをめくると今日の日付からどんどん日付が戻っていきます。二週間前の十二月半ばに戻りました』 二週間前というと、忘年会のあった日あたりだ。 (何で今更そんなことを思い出させようとしているんだっ!) 反抗的な思考とは裏腹に女の人の声が静かに質問してきた。 『ここは忘年会の会場の老舗ホテルの大宴会場です。あなたは何をしていますか?』 「料理とお酒を取って食事をしています」 『それだけですか?』 「会社のトップの人たちが来ているので、雑談をしています」 『その後はどうですか?』 「また食事を再開しています」 『会社のトップの人たち以外では誰かと会いましたか?』 「営業課の飯田が近くにいます」 『それで?』 「会長が来たので、会長と雑談をしています」 『食事をしていた場所から離れましたか?』 「はい」 『雑談が終わりました。あなたは何をしていますか?』 「先程まで食事をしていた場所に戻って、食べ残していた食事を食べています」 『飯田さんはまだいますか?』 「隣でニヤニヤしながらいます」 『食事は順調に進んでいますか?』 「いえ、途中で体に力が入らなくなって飯田に支えてもらっています」 『それで?』 「飯田が部屋を取っていると言うので、部屋に連れて行ってもらっています」 『部屋に到着しました。あなたは何をしていますか?』 「飯田に襲われています…」 『日付がどんどん進んで今日のカレンダーまで戻ってきました。今は病院にいます。旦那さんがあなたを抱きしめてくれています。目を開けてみてください』 言われるがままに目を開いた。 いつもならもっと時間が進んでいるけど、今回は三時間程度しか進んでいない。 少しまだ頭がボォーッとする。 一縷の顔を見た途端、涙が溢れてきた。 『飯田に襲われた』と自分の口で言ってしまった。 一縷を裏切ってしまった。 そんな思いが僕を過呼吸へ導いてしまった。 息ができない。 パニックになってしまって、今までどうやって息をしていたかすらも分からなくなっていた。 一縷もどう対応していいのか、おろおろしている。 『過呼吸だわ。少し彼を借りるわ。あなたは少し席を外して』 「でも…」 『これはあなたが原因なの。お願いだから』 「分かりました」 女の人に言われた通り、一縷は寂しそうな顔をして部屋から出ていった。 『まずはゆっくり呼吸してみましょう』 (……できないっ) 首を横に振ることで不可能と意思表示する。 『では、口をすぼめて呼吸してみて』 タコのように口をすぼめて呼吸してみる。 先程までの息苦しさはなくなったが、まだ完全に治まったとは言えなかった。 『できてるわ。そのままゆっくり呼吸するの』 『吸って…………吐いて…………』 女の人の言う通り呼吸をする。 どんどん落ち着いてきた。 『落ち着いたわね。彼と話する?』 「ありがとうございました。……話します」 『そう。じゃぁ、呼んでくるわね』 「お願いします」 彼女が部屋から出て、代わりに一縷が部屋に入ってくる。

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