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第43話

side一縷 病院に着いて、受付を済ませ、診察室に入る。 診察を受ける。 結果は即入院だった。 蒼は何となく分かっていたようだった。 Ωには個室が与えられる。 指定された個室に向かうと、まるでホテルのようだった。 最近はどこの病院もこうなのだと蒼は言う。 それにしても、かなり豪華な内装だ。 大型テレビにシャンデリア、アロマも焚いてある。 ちょっとしたホテルよりも待遇はいいのかもしれない。 周りをきょろきょろと見渡す俺と違って、蒼はさっさと荷物を解いていた。 「ちょっと、いち。これ、そっちに置いて」 まるで母親のようだった。 既に肝が据わっている。 それに比べて、俺はこれからどうなってしまうのか、と不安でいっぱいで、落ち着いてなんかいられなかった。 「少しは落ち着いてよ」 いい加減呆れ返った蒼が言い放った。 それくらい落ち着いていなかったらしい。 「ごめん…」 謝るしかできない。 あまりにも情けなくて、ベッド近くに置かれている椅子に腰かけた。 「いつ産まれるか心配で仕方ないんでしょ?」 蒼にズバリ言い当てられた。 「…うん。何かあった時、怖くて…」 「僕に何かあってもいちは大丈夫だから。ちゃんといちの元に戻ってくるから」 蒼は俺をふわりと優しく抱きしめてくれた。 それはまるで子供を宥める親のようだった。 「俺があおを不安にさせるような弱気なこと言ってちゃダメだよな。ごめんな。もう大丈夫だから」 どこか吹っ切れた。 俺が弱気になったら、蒼が出産に集中できなくなる。 それに、もうすぐ父親になるんだ。 産まれてくる子供に情けない姿は見せられない。 しばらくは蒼の体に変化はなく、二人きりで病室で過ごした。 夕方になって、蒼に変化が出てきた。 陣痛の間隔が短くなってきた。 病院に到着した頃は五分間隔くらいだったのが、夕方過ぎからは三分間隔くらいまで狭まってきた。 今まで見たことのないような蒼の姿に俺は慄いてしまった。 すごい痛がりようで、涙まで流している。 「いちぃ…助けてぇ…痛い…っ!!!」 こんな苦しそうな蒼の声を聞いたことがなかった。 子供の頃の誘拐事件の時ですら弱音を吐かなかった蒼。 そんな蒼が泣きながら俺に助けを求めている。 しかし、俺は何もできない。 助産師さんからは腰あたりを撫でてあげると割と楽になると聞かされていたので、一生懸命撫でた。 それでも、蒼は苦しそうだった。 泣いている蒼につられて、俺まで泣き始めてしまった。 それでも、ずっと腰を撫でていた。 蒼の苦しみが少しでも和らげぐようにと。

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