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番外編『愛すべき贈り物』1
「もういいっ。別に1人で行けるからっ」
雅紀はぷいっとそっぽを向くと、充電していたスマホを上着のポケットに突っ込んで、財布を掴んで玄関に向かった。
「だから~、待てって。今、秋音に伝えてる最中だっつーの」
暁は慌てて雅紀の後を追うと、靴を履いている雅紀の腕を掴んだ。
「秋音がなかなか返事しねえんだよ。いいからもうちょい待てっ」
雅紀は掴まれた腕を振りほどき
「だって、暁さんは、行きたくないんでしょ?だったら俺、1人で行きます。秋音さんのこと、無理に出さなくていいし」
頑なに暁の方を見ようとせずに、靴を履いて玄関のドアノブに手をかけた雅紀に、暁ははぁっと大きなため息をついて
「あのさ。なんでおまえ怒ってんの?昨日からおかしいじゃん。俺の話、聞こうともしないしさ」
「……う。別に……怒ってないし」
暁はもう1度、雅紀の腕を掴んで
「んじゃ、俺の顔、見ろよ。ちゃんと、目、合わせてみろって」
雅紀は眉を八の字にして、拗ねた顔で上目遣いに暁をちろっと見た。
……うーん。こういう顔してても、可愛いんだよなぁ、こいつ~。
うっかりニマニマしそうになって、暁は頬に力を入れて表情を引き締め
「よーし。んじゃ、何がご不満か言ってみ。昨日だけじゃねえだろ?このところずっと、おまえ、なーんか様子おかしかったしさ」
雅紀は暁から目を逸らした。
「……不満なんて、ないし」
「んー。じゃあ不安なことか?どんなことでも構わねえよ。何か思ってることあんならさ、ちゃんと言葉にしてくれって」
雅紀は口を開きかけて、また暁の顔をちろっと見て、むーっと口を引き結んだ。
……うわぁ……この頑固者。どうしても口を割らない気かよっ
暁は雅紀の腕をぐいっと引き寄せると、そっぽを向いてる顔を覗き込んだ。
「なあ、言ってくれよ。おまえが何考えてるか、気になるだろ」
ぎりぎりまで顔を近づけて、ちょっと低めの声で耳元に囁いてみる。雅紀は恨めしそうな目で暁をちらっと見て、じわっと目元を染め
「……不安なことなんか……ないです」
でもまたそっぽを向いた。
……くそー手強いな。んじゃ、これでどうだ
暁は雅紀の耳元に唇を寄せると、ふぅっとわざと息を吹きかけた。
「1人で行くとか言うなよ。どうしても今日、行かなきゃいけないわけじゃねえだろ?」
雅紀はくすぐったそうに首を竦め、もじもじして
「……だって……もう約束……しちゃったし」
「ふうん。雅紀はさ、俺とのんびりするより、あいつとの約束の方が大事なんだ?」
「……っ。そんな言い方……。暁さん、狡い」
雅紀の目が揺らめく。ちょっと涙目だ。よーし。もう一押し。
「このところ忙しくてさ、や~っともらった連休だろ?俺はおまえと2人っきりで、のんびり過ごしたいんだよ。ほら、こんな風にさ」
雅紀の顔を両手で包むと、鼻の頭にそっとキスを落とす。雅紀はぴくんと震えて、暁の胸に両手をあてた。
「なあ……言って?雅紀」
とびっきりの低音ボイスで囁きながら、ちゅっちゅっと鼻先に何度もキス。雅紀は目元だけじゃなく頬や首筋までほんのり染めて、暁の胸にあてた手を必死に突っ張らせる。
「……や。だめ……」
「だめとか言うなよ……部屋、戻ろうぜ。な?」
囁きながら雅紀の腰に手を回し、小さな形のいいヒップを両手でさわさわと撫でた。雅紀はきゅっと目を閉じて、暁のシャツを掴む。長い睫毛がふるふると震えていた。
……こいつマジ、人形みたいに綺麗なんだよなぁ。つか、天使?俺とおんなじ男とは思えねえっ。
震える睫毛に掠るだけのキス。更に鼻の頭、頬へと優しく触れていって、お次はその柔らかそうな唇に……。
ーばちん!
「っいって~~~っっ」
「暁さんのばか~~~っ」
雅紀の繰り出した平手が、暁の顔面にまともにヒットした。
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