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番外編『愛すべき贈り物』2

「で。何やらかしたの?喧嘩?」 ソファーの背もたれにだらしなくふんぞり返り、不貞腐れてる暁の前にコーヒーを置くと、祥悟はくすくす笑いながら隣に腰をおろした。 「知らねえよ」 暁はそっぽを向いたまま、煙草を咥えてマッチを擦る。祥悟は自分の分のコーヒーをひと口飲むと 「仔猫ちゃんに反撃されたんでしょ。まあ見事な紅葉の跡だねえ。何、無理矢理襲おうとでもした?」 「ちげえよっ。ぅ、いや、違わねえけどさ。あいつ、すぐに手や足が出やがるし」 祥悟は、むくれてすぱすぱ煙草をふかす暁の横顔を、笑いを噛み締めながら見つめて 「ふうん。暁くんを手こずらせるなんて、あの子もなかなかやるよねえ。まあ、あれだけ女とっかえひっかえ食いまくってた君を、ころっと宗旨替えさせて骨抜きにしちゃった時点で、相当だとは思ってたけど」 暁はじろっと祥悟を睨みつけ、コーヒーをすすると 「おまえね~。里沙とおんなじ顔して、そーゆーこと言うのやめてくれるか?」 「ふふ。同じじゃないし。それに、何それ、少しは里沙に罪悪感があるってこと?」 にやにやしながら祥悟に顔を覗き込まれて、暁は嫌そうに顔を顰めた。 「ち。そういうんじゃねえよ。罪悪感も何も、里沙とは最初からお互いに遊びだっての。そこは了解済みなんだからいいんだよ」 祥悟はちょっと真顔になって、暁の顔をまじまじ見つめていたが、やがて首を竦めて微笑み 「んー……ま、そうかもね」 「……なんだよ。その含みのある言い方」 祥悟は暁の煙草を1本抜き取ると、口に咥えてライターで火をつけ、すうっと深く吸い込むと、ゆっくりと煙を吐き出した。 「全然なかったの?里沙とは」 「何が」 「恋愛感情」 「ないな。いや、全然なかったってわけじゃねえ……かな。んーーー。分かんねえ。もちろん、嫌いじゃなかったぜ。っつか、好きだったよ。俺はあの頃、たしかに女とっかえひっかえだったけどさ。里沙とはなんだかんだいって、一番長く続いたしな」 祥悟は暁から目を逸らし、また煙を細く吐き出すと、 「それは単に、セックスの相性が良かったってだけじゃない?」 「うわっ。だから~。おんなじ顔してそういうこと言うなっつの。しかもおまえ、弟のくせに自分の姉のそーゆー話をだな」 祥悟はくすくす笑い出した。 「やだな、暁くんでもそういう話は照れるんだ?」 「う……。そらまあ……照れるっつうか、なんてーの?結構デリケートな部分じゃん。身内のそっち系の話題ってのはさ」 「別に暁くんが照れること、ないよね。むしろ俺の方でしょ。姉のそういう話題振られて、うわぁってなるのは」 暁は煙草を灰皿に押し付けてもみ消すと、また背もたれにどさっともたれ掛かった。ポーカーフェイスで上品に煙草を吸っている、里沙とよく似た華やかな女顔をしげしげと見つめた。

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