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特別番外編「君が消える日」12
「……なにやってるんだ。あいつは」
暁が……いや、秋音が呟く。雅紀が頬に触れた手に、自分の手を重ねて
「この状態でいきなり交替させられても……な?」
苦笑する秋音の言葉に、雅紀は慌てて肩から脚をおろした。
「秋音……さん…」
雅紀の目が不安に揺れている。秋音は優しく微笑んで
「いや。続きするのは嫌じゃないぞ? 唐突に出されてびっくりしただけだ。でもおまえは…もうそんな気分じゃないよな?」
雅紀はきゅっと眉を寄せて
「う……ん。……暁さん、何か様子が変だった。急に……どうしたんだろう……」
秋音は雅紀の鼻の頭にちゅっとキスすると、雅紀の中から自分のものをそっと引き抜き、隣に横になった。
「なあ、雅紀。少し長い話になるが……いいか?」
少し考えてから、穏やかに話しかけてきた秋音に、雅紀は表情を改めて神妙に頷く。秋音は雅紀の柔らかい髪を、そっと撫でながら
「ちょっと前から、暁が悩んでいるのは知っていた。あいつが中にいる間は、俺の心は読めないみたいだが、俺が中にいる時には、あいつの心が手に取るように分かるからな」
雅紀はちょっと驚いたように目を見張った。
「え……。それって……秋音さんと暁さんで、中にいる時の状態が違うってことですか?」
「そうだ。どういう作用でそうなっているのかは分からないけどな。俺は引っ込んでいる時もあいつの感情を共有出来てる。でも暁は……そうじゃない」
「そう……なんだ……」
「まあ、もともと俺たちの状態そのものが、説明のつかない不思議な現象だからな。細かく突き詰めると、いろいろと矛盾があるんだ。ただ……それでもずっと、たいした問題もなくやってこれた」
「……うん」
「でも最近、暁がそのいろんな矛盾に気づき始めた。記憶が……所々抜けているってことにだ」
雅紀ははっとして、秋音の手を握り締めた。
「……記憶……?」
「ああ。俺は正直、そのことには随分前から気づいていたし、俺と暁で感情の共有の仕方が違っていることも知っていた。暁がそれに気づかなければ、問題はなかったんだ」
雅紀はきゅっと顔を歪めた。
「分かるだろう? 記憶ってヤツは、暁には鬼門だ。7年間、事故で記憶を失くして中にいた俺よりも、その間に生まれてしまった人格の暁にとって、記憶が抜けるっていうのは、恐らくものすごい恐怖なんだと思う」
雅紀はさっきの暁の、まるで悲鳴のような声を思い出した。
あれは得体の知れない恐怖に怯える暁の、切なる願いだった。消えたくない、離れたくないと、暁は必死にすがりついてきたのだ。雅紀の心に。
……なんて苦しい……。
……なんて哀しい……。
雅紀は目に涙を滲ませて、秋音の目をじっと見つめた。
「……暁さん……消えちゃうんですか? このまま……いなくなっちゃう?」
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