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特別番外編『ちよこれいと』最終話7
網の上で型ごと冷ましていたケーキは、暁の言う通りぷしゅんと潰れて、表面にひび割れが出来ていた。暁はケーキを型から外して白いプレートの上に移すと、茶こしで上から粉砂糖をまぶす。その手際の良い暁の動きを、雅紀はぽーっとした顔で見とれていた。
「俺ね、カメラやりたいな~って思ったきっかけって、仕事で職人さん見てた時なんです」
「ん?」
暁はケーキを仕上げながら、雅紀の方を見て首を傾げた。
「内装屋さんとか、大工さんとか、その道のプロの方の職人技って、見るの大好きで」
「ああ、なるほどな。たしかにその道のプロの手つきってすげーよな」
雅紀はふふっと嬉しそうに笑って
「たこ焼き屋さんとか、お寿司屋さんとか、作ってるのが見れるとこだと、思わず見とれちゃうんですよね。自分が不器用だから余計になのかもしれないけど、格好いいなぁ〜って。暁さんの手も好きです。写真、撮りたくなっちゃうくらい」
惚れ惚れした顔で面と向かってしみじみ言われて、暁は思わずどきっとした。
……うわぁ……何なのこの可愛い生き物っ。マジで天使かよ。殺し文句過ぎんだろっ。
自分でもアホかと呆れるぐらい雅紀が可愛くて仕方ないのに、これ以上ドキドキさせられたら心臓が持たない。さっきの可愛い焼きもち告白でも、きゅんきゅんさせられたばかりなのに。
暁は妙にドギマギしてしまった自分に照れて、にやける頬を必死に堪えながら
「さーてと。完成だぜ。ほんとはもう少し冷ましてからの方がいいけどさ、今、食う?」
雅紀はほにょんと幸せそうに微笑んで頷き
「うん。ちょっとだけ、味見したいです」
「OK。んじゃ、2人でひときれだけ食うか」
厨房から専用のナイフを取ってきて、一切れ小皿に取り分けるとフォークと一緒に、雅紀の前に置いた。
「食ってみ?」
雅紀はケーキをじっと見つめてから、上目遣いに暁を見上げて
「お口あーん……しなくてもいいですか?」
その言葉に、暁はぴきっと固まった。
……ちょ、待て。今日のこいつのデレ、凶悪過ぎるっ。マジで俺、死にそうだろ~。
もちろん、お口あーんはしたいし、して欲しい。でもまさか、雅紀が自分から言ってくれるとは……。
暁はにやけてしまう頬をもう抑えきれずに、フォークを手に取ると
「んじゃ、俺からな?」
上擦った声でそう言って、ひとくち切り分け、雅紀の前に差し出した。雅紀はそれをぱくっと口に入れるともぐもぐして
「んー美味しいっ」
至福の表情で暁を見つめた。その笑顔に、暁はまたきゅんきゅんしながら
「俺にも食わせて?」
雅紀は頷いて、暁からフォークを受け取り、ひとくち切り分けて暁に差し出した。
「はい、暁さん。あーんして」
暁はケーキを口に入れると、咀嚼しながら雅紀の顔にぽーっと見とれた。もう味なんか全然分からない。ケーキより、目の前の天使の笑顔が甘すぎて愛しすぎて……。
「美味しい?」
「ああ、最高。甘くて蕩けちまいそうだぜ」
暁は、にこにこしながら首を傾げる雅紀の身体を引き寄せると、優しくキスを落とす。そっと触れるだけの口づけに、雅紀はうっとりと目を閉じた。ついばむようなキスを何度も何度も繰り返すと、雅紀の吐息が甘さを増していく。
「帰ろうぜ。俺たちの愛の巣に」
暁の掠れた囁きに、雅紀はキスで蕩けた目元をうっすらと染めて、こくんと頷いた。
「大好き……暁さん」
「俺もだよ、雅紀」
ー完ー
……ということで、特別番外編、終了です。
次もチョコレートネタのお話を更新します。
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