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特別番外編『ちよこれいと』6

雅紀は顔をあげようとする暁の頭をぎゅーっと押さえ込んで 「あの……あのね。怒らないでくださいね。俺、お客さんたちから……暁さん宛のチョコレート、いっぱい預かってて……」 雅紀は消え入りそうな声で呟いて、いったん口を噤んだ。暁は動くのを止めて、大人しく雅紀の胸に顔を埋めていた。 「ほんとは……暁さんに直接渡したいって頼まれたんだけど……俺、忙しいから無理だと思うって……全部……断っちゃって……。う……ごめんなさいっ」 雅紀はようやくそれだけ言うと、暁の頭からそっと手を外した。暁がすかさず顔をあげると、雅紀は眉を八の字にして、叱られる寸前の子どもみたいな顔をしている。暁は思わず噴き出した。 「くぅ~なんなんだよっそれ。おまえってマジ可愛いやつっ」 そう叫んで、びくっとした雅紀の顔を両手でがしっと押さえて 「そっか。そういうことか。おまえも俺とおんなじじゃん」 暁は満面の笑みで、雅紀の顔を覗き込んだ。 「俺が女の子からチョコもらうの、嫌だったんだ‍?」 雅紀はうーうー唸りながら、恨めしそうに暁を見て 「だって……暁さん目当てのお客さん、みんな可愛いかったし、綺麗だったし。直接渡したりしたら、暁さん鼻の下伸ばしそうだったし」 「はぁ‍?バカ言うなっつーの。誰が鼻の下なんか伸ばすかよっ。おまえね~。少しは俺のこと信用しろよな〜」 暁は雅紀の鼻の頭にちゅっとキスすると 「俺が告られて鼻の下伸ばすのは、おまえだけだろ?俺はおまえにデレデレなの。くだんねー嫉妬しちまうくらいさ。分かる‍?」 雅紀はじわっと頬を染めながら、こくこくと頷いた。 「うん……分かってる……ごめんなさい……」 暁は笑いながら雅紀の髪をくしゃくしゃっとして 「あ~あ。俺らってマジでバカップルだよなぁ。ベタ惚れ過ぎんだろ~」 「うん。傍から見たら、きっとウザいですよね……」 暁は雅紀の腰に手を回して抱きすくめ 「んなの気にすんなって。誰になんと思われたってさ。俺たちはラブラブで幸せだからいーの。あ……なぁ、雅紀。怒んねえ?」 「へ‍?なにを‍?」 暁はへらっと笑って 「さっき作ったガトーショコラの材料な」 きょとんとしている雅紀から、暁は微妙に目を逸らし 「おまえが客から貰ったチョコ、全部溶かしちまった」 思いがけない暁の言葉に、雅紀は目を見開いた。 「え……えーーーっ‍?」 「や。だってさ。ほんとは全部こっそり捨てちまおうかって思ったんだけどさ、勿体ねえし。でもそのままおまえが食うの、なんか悔しくてさ」 口を尖らせながらぶつぶつ言っている暁に、雅紀は呆れたように苦笑して 「んもぉ……暁さん、子どもですか」 「えー。でもさ、おあいこだろ?おまえだって俺のチョコ隠したじゃん」 「う……そうだけど……」 暁は雅紀の唇にちゅっとキスして 「んじゃ、仲直りのいちゃこら、しようぜ?」 暁の嬉しそうな囁きに、雅紀は恥ずかしそうに目を逸らして 「だめ。ここは神聖な職場です。マンションに帰ってから。それにさっきのケーキ、まだ食べてないし……」 「おいこら。色気より食い気かよ」 くすくす笑っている雅紀のおでこを指先でつんとして 「おっしゃ。んじゃ、あのケーキで2人だけのバレンタインパーティーしてさ、早く家に帰ろうぜ」 暁はもう1度、雅紀の唇にちゅっとキスを落とした。

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