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特別番外編『にゃんにゃんにゃんの日』後日談5最終話
「そ。バカップルの片割れ」
「もしかして、前に話してくれた、里沙さんのセフレかい?」
その問い掛けに、祥悟は目を見開き、初めて横にいるのに気づいたとでもいうように、隣の智也をまじまじと見つめた。
「俺、おまえに話したことあったっけ?」
智也は苦笑して
「あったよ。それにひと月ぐらい前かな。ラブチョコを手に入れてくれって、俺に頼んだじゃないか。自分で使うの? って聞いたら、暁ってヤツに贈るって、君、言ってたよね?」
「んー……そっか」
「それで、別人みたいっていうのは、その暁くんのこと?」
祥悟はむーっとしかめっ面に戻り、
「そーだよ。あいつさ、本命の恋人が出来たんだよね。仔猫みたいな大人しそうな可愛い系の彼氏。男になんか興味ないって言ってたくせにさ」
……なるほど。つまり祥はそのカレシ持ちの暁ってヤツに、あのチョコでちょっかいをかけて……振られたわけか。
祥悟の失恋話を聞かされるのは慣れっこだ。ただ、今回は相当落ち込んでいるようで、胸の奥がツキっと痛んだ。
智也は腕を伸ばし、祥悟の肩をそっと抱き寄せる。それが合図みたいに、祥悟は智也の膝に跨り、向かい合わせになると、ぷいっとそっぽを向いた。祥悟の動きは、まるでしなやかな猫のようだ。長身なのに体重を感じさせない。
「祥。君、暁くんに、惚れてたのかい?」
祥悟は智也の胸にぽふんっと顔を埋めたが、すぐに顔をあげ、上目遣いで智也を睨んで
「わっかんね。別に惚れたりしてない……と思うけど?」
「じゃあどうして拗ねてるんだい?」
祥悟はぷくっと頬をふくらませ
「拗ねてねーもん。ただちょっと……」
「ただちょっと?」
「……ムカつく。あいつらすっげー幸せそうな顔してた」
祥悟はぶつぶつ呟きながら、細い指で智也のシャツのボタンをつついた。
「君も、幸せに、なりたいの?」
あまり深刻にならないように、笑い混じりに尋ねてみる。祥悟はちろっと目だけあげて
「やだ。あんなバカップルにはなりたくねーし。格好悪いじゃん」
「ふふ。そうか。じゃあもうご機嫌を直しなよ」
祥悟はちょっと不思議そうな目をして首を傾げ
「智也もさ、変わっちまうわけ? 恋とかしたら」
祥悟が時折見せてくれる、こういう子どもみたいな素直な目がすごく好きだ。出来れば他の誰にも見せて欲しくない。
「俺は多分、変わらないよ。ずっとこのままだ」
智也の答えに、祥悟は安心したように笑って
「そっか。絶対に変わるなよ。おまえはずーっと今のままがいい」
……ずっと今のまま、ね。
智也は込み上げてくる切なさを、無理やり胸の奥に押し込めると、優しく微笑んで、祥悟の唇にそっと口づけた。
「……今夜はどうする?」
低い声で囁くと、キスでほどけた祥悟の艶やかな唇が弧を描く。
「……したい。抱いて?」
智也は微笑みながら頷いて、祥悟の細い身体をぎゅっと抱き締めると、その唇に情熱的なキスを落とした。
「いや、すげーよな、秋音のやつ。あの祥悟を瞬殺だもんなぁ」
「んもぉ。また同じこと言ってるし。ほら、手が止まってるでしょ。お皿、かしてくださいってば」
「や、だってさ、俺はもうちょっと手こずると思ってたんだぜ? あのひねくれ祥悟に口で勝てるわけねえってさ。それが勝っちまうんだもんなぁ」
雅紀に促されながら、暁は洗った皿を次々と雅紀に手渡していく。受け取った雅紀は布巾で綺麗に水気を取って、食器棚に仕舞っていった。
「愛の力ってヤツか? すげーよ、秋音。天然パワー炸裂だろ。何も反論出来なくてさ、唖然としてたよな、祥のヤツ」
暁はくくく……っと思い出し笑いしながら、最後の皿を雅紀に手渡した。
「おっしゃ。これでラストだ。雅紀~。ようやくいちゃこらタイムだぜ〜」
雅紀が拭いた皿を食器棚に収めるのを待って、暁は後ろから抱き着いた。
「な、な、明日は店、休みじゃん? 俺、表に出んの久しぶりじゃん? 今夜はおまえ、朝までずっと寝かさねえぜ。……なーんてな」
大きな尻尾をふりふりしながら、暁は楽しそうにはしゃぎまくって、雅紀の顔にキスしようと唇を突き出す。
雅紀はその唇を手のひらでばっと押さえて
「だめ。暁さん」
「えー。なんでだよ~。片付け終わったしもういいだろ?」
雅紀はゆっくりと首を横に振ると
「秋音さんから、伝言です」
「へ?」
「こないだ協力しなかった罰だ。おまえは2週間エッチ禁止な。……だそうです」
暁は目を見開いた。
「……は? えーーーー。マジかよ! おいこら秋音、おまっそれ、横暴だろーが!」
慌てふためき、もう1人の自分とぎゃんぎゃん喧嘩を始めた暁に、雅紀ははぁ……と深いため息をついた。
ー完ー
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