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第1話

1.  奴隷として売られていた僕を、この国の王様が買った。身体的にも精神的にも限界だった僕は、王様に縋るしかなかった。清潔な服、味のする食事、お風呂にだって入れた。それと、もう一つ与えられたものがある。   「いつまで経っても慣れないな、お前は」  王様の固く起ち上がったモノに中を突かれる度、僕は身体を固くし、「ひうひう」鳴くしかできなかった。もっと力を抜かなければ、緊張を解かなければ、自分がきついだけだとわかっているのに、うまくできなかった。そんな僕を王様は、「可愛い」と言い、頭を撫でた。王様の身体は大きく、僕はこの国の平均よりも一回りは小さかったため、行為は苦しく、怖くて、気持ちがいいものではなかった。  王様の精液が中に注がれて、コトが終わると、ようやく大きく息を吐くことが許された。世話係を命じられているらしい男が顔をしかめながら、僕の身体を清めてくれた。変に暴れると疲れるだけなので、されるがまま、身を任せる。これには慣れてきた。けれど、時折男が僕の身体で遊んでくるのは勘弁してもらいたいと思う。  それが、僕の日常だ。  奴隷として売られていた頃よりもまともな生活をしているはずだ。これ以上を求めるのは間違っている。そう自分に言い聞かせる。僕は今、恐らくは16歳で、今年で30になるという王様よりは若く、未発達な体つきをしている。それが王様の好みだったのかもしれない。いずれ、僕が王様くらいの年齢になったら、もう僕を抱くこともなくなるのだろうか。飽きるのだろうか。そのことを、期待すると同時に、怖いと思ってしまう自分の浅ましさに驚く。  ***  僕が部屋の外に出れるのは、王様自身がどこか遠くの国に行かなければならないときだ。その行きと帰りの道中や知らない国の一室で、王様の暇をつぶすために連れて行かれる。慣れない環境での行為は余計に僕を消耗させた。  馬車の中で壁にもたれ、過ぎていく景色をぼんやりと眺めていた。そのとき、大きな店主の声と甲高い鳴き声が聞こえ、思わず、隣に座っていた王様の服を掴んだ。馬車が止まる。王様が指さす先、僕の腰くらいまではありそうな檻が数個並んでいた。中に四本足の大きなネコがいる。  それは一見すると豹のようだったが、どれも豹にしては金や銀、赤など鮮やかすぎる毛並みをしていて、どうやら僕の知る豹とは違う生き物らしい。 「あれは、子供のビョウを売っているんだ。賢くて強いから愛玩動物としても、門番としても人気がある。それと、あの毛皮だな。様々な模様があってどれも美しい。が、中にはああいうのもいる」  王様は機嫌がよかった。僕の後ろの穴に得体の知れない液体を注ぎ、火照り始めた身体で遊んでいる最中だったからかもしれない。殊更ゆっくり馬車を降り、ふらつく僕の肩を抱きながら店の前まで連れて行ってくれた。  店主は王様の姿に驚いたようで、慌てて地面に膝をついた。  それは、店内の奥の方にいた。狭い檻の中で窮屈そうに身体を丸めている。僕の視線に気がついたように、顔を上げた。目は金色だった。  その馴染みのある姿は、僕を少しだけ和ませた。 「ほら、見えるか。あのビョウには柄がない。真っ黒だ。ああいうのはなかなか売れない。いずれは、毛皮にされて、安い値段で取引されるだろう」  王様の言葉が突き刺さる。まるで自分のことを言われているようだった。僕も、奴隷としては規格外に小さくて、処分される寸前だった。 「買って、もらえませんか。僕に、あのビョウを」  思えば、自分から何かを望むのは初めてのことだった。王様は目を見開き、愉快そうに笑った後、すぐにあのビョウを買うように部下の人に指示をした。ほっとすると同時に、またぞくぞくと身体が熱くなってきた。段々と思考力が奪われていく感覚が怖い。 「ほら、馬車まで戻るぞ。それともここでさっきのビョウの代わりに檻に入ってまた見世物になるか?」  王様はわざと大股で歩き始め、手足に力が入らなくなっていた僕はすぐに置いて行かれた。遠くから王様と、その部下の人たちが、面白そうにこっちを見ている。僕は地面を這いながら、なんとか馬車の中に乗り込んだ。服が肌に擦れる感覚だけで、痛いくらいの強い快感が襲ってくる。 「ほら、あのビョウに支払った金額の分、俺を楽しませろ」  王様は僕には触れてくれず、背中側に手を縛ることで、自分で自分に触ることも封じ、ゆるく起立した前への奉仕を僕にさせた。狭い馬車内で跪き、命じられるがまま、早くこの身体の高ぶりを沈めてほしくて必死に舌を使った。泥沼に意識が沈んでいく。それからのことはよく覚えていない。  目を覚ましたのは、いつもの城のどこかの一室だった。ただ違うことがひとつあった。寝台の隣に檻があった。中に、黒い獣が眠っている。あのときのビョウだった。駆け寄ろうとして腰が立たず、無様に寝台から落ちる。その物音に、ビョウが顔を上げた。立ち上がり、鉄棒と鉄棒の隙間から僕の方へ顔を寄せ、においを嗅いでいる。やがて、赤い舌で僕の鼻頭を舐めた。金の瞳がじっと僕を見ている。まるで「大丈夫か」と心配してくれているようにも見えた。  檻の鍵を探すと、寝台の枕元に無造作に置かれていた。その鍵で檻を開ける。ビョウは立ち上がり、外に出てきた。大きいとは思っていたが本当に大きかった。これでまだ子供だというのだから、信じられない。すでに僕の身長と同じくらいはありそうだ。長くしなやかな尾を加えればもう超されているだろう。 「君は、何を食べるの? お腹空いているよね?」  残念ながら僕には知識がなく、知識があったとしても、それを用意するお金もなかった。部屋の外で常に待機をしている世話人の男に声をかける。男は、面倒くさそうに顔をしかめた後、「飼われている身で、動物を飼うとは滑稽な」、鼻で笑って、それでもビョウの餌を用意してくれた。  皿に盛られた白く茹でた何かの肉だった。ビョウの方へ近づけると、よほど空腹だったのか勢いよく食べ始め、あっという間に皿を空にした。   「足りない? 大丈夫?」  ビョウはガウと吠え、僕に寄り添い、そのまま眠ってしまった。可愛い。暖かい。僕もその場に丸くなり眠った。誰かの体温を感じながら眠るのは初めてのことだった。僕より早く、そして強く心臓が打っている。涙がこぼれた。  守りたいと思った。 ***  ビョウは動き回るのが好きなようだった。幸いにも部屋の中には寝台があるきりで広かったから、不便はしていないようだったが、やはり外に出て力一杯動き回りたいのだろう、窓の外から見える空をじっと見上げていることがあった。  王様が部屋にくるときは、ビョウは檻の中に戻された。その際に、ビョウを部屋の外で遊ばせてあげてほしいとお願いすると、「お前次第だな」と言った。王様は僕の両手を拘束し、いつもよりも長く僕を抱いた。そのつらさに逃げようとすると、「じゃあビョウの件はなかったことにしよう」と言われた。今は檻の中に閉じ込められているビョウが元気に外を走り回っている姿を想像すると、少し痛みが遠のく心地がした。  次の日は指一本動かすこともできないくらい身体が重たかった。けれど、王様は約束を守ってくれた。ビョウは外に連れ出されたようで、その短い毛を草や土で汚して帰ってきた。抱きしめると、もう久しく嗅いでいない太陽のにおいがした。   「よかったね」  「お前のおかげだ」とでも言うように、ビョウは僕の頬を舐めてくれた。それが嬉しくて、僕はもっと強くビョウを引き寄せた。  水浴びをさせてあげてほしい、餌がもっとほしい、外に連れ出してほしい、檻をもっと大きくしてもらいたい、僕が何かをお願いする度に王様はにこにこ笑って応じてくれた。僕は、起きていられる時間が少なくなった。けど、ビョウが健やかに成長している様子が嬉しくて、痛む身体も衰えていく手足もどうでもよくなった。   「よかったね」  ビョウの金色の瞳が好きだ。冷たい色なのに暖かく感じる。王様が前に言っていたように、賢いようで、僕が動けなくなっていると、上に布団をかけてくれたり、僕の代わりに扉をひっかき、世話人の男を呼んでくれたりする。  身体も更に大きくなった。外で思い切り遊べているおかげだろう、筋肉も固く、発達してきた。黒い毛並みは艶やかで灯りの下、つやつやと輝いて見えた。きれいだなあ。  こんなやり方でしか育てられない自分が情けない。 「僕なんかが、飼い主でごめんね」  

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