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32.落着

 結局一睡もしないまま、みんなでぞろぞろ寮に戻り、朝参戦の三人以外はそれぞれ部屋に直行した。  めちゃ疲れた、色々あって、いちいち緊張しまくったもん。もちろんまっすぐベッドに潜り込んで、速攻落ちた。  そして夕方。  爆睡から起きた213の3人は、メシ食ってから風呂入って、娯楽室で先輩たちに拉致られ、監察の部屋に連行された。  津田会長、乃村副会長と島津副会長、唐沢先輩と太和田先輩と小山先輩つう各部のアタマ。そして当然、保守の宇和島先輩もいて、腕組みしたままコワい顔してる。それと同じくらいガタイも声もデカい小谷先輩って人が 「なんのために保守に誘ったと思っている!」  いきなり怒鳴りつけてきた。 「事情があるなら言えと言ってあっただろうが!」  ひええ、とかビビりまくって直立する俺と、ボーッと立ってるようにしか見えねえ橋田。気持ち後ろにいた丹生田が一歩前に出る。 「自分の都合でご迷惑をおかけしては……」  とか言いかけた丹生田は、小谷先輩にいきなり目一杯な感じで腹殴られた! うげぇぇ鉄拳制裁!  一瞬背を丸めただけで、すぐに背を伸ばした丹生田は、きをつけの姿勢でくち真一文字だ。 「宇和島先輩が、おまえに言った!」 「はいっ!」 「なぜ従わない!」 「はっ、済みませんでした!」  丹生田も腹から声出して、なんだろコレ? とか周りが呆然とする中、宇和島先輩がニヤリと笑った。 「よし、保守の話は終わりだ。後はそっちでやってくれ」  うええ、話ってこぶしで語ったとかそういうコト!? マジこええ保守って!  でも実際、宇和島先輩は何度か213に来てたんだ。けど丹生田はいなくて「また来る」なんて帰ってた。それでも保守の会合には丹生田も行ってたし、そこで話が進んでるんだろうって、そう思うだろ?  けど「事情があるなら声かけろ」なんて言われてただけだったんだって。考えりゃそうだよな。会合ってくらいだから保守の話し合いがあるわけで、丹生田のことばっかり話すわけにいかない。まして今回の話はかなりレアな特別扱いだ。こっそり話したいに決まってる。  つまり、どうレアかというと。  丹生田のお父さんが風聯会通して執行部に依頼してたらしいんだ。丹生田のこと、よろしく的な感じで。  風聯会からの依頼だし、執行部と総括から保守に相談した。保守内でも、どういう対応が可能か、考えてたんだって。  そんな流れで俺たちも「見てたんなら相談しろよ」とかって風橋さんとか栃本さんとか、優しい感じの太和田先輩にまで注意されちまう。 「事情知らないのに、無理言わないで下さい」  なんて、橋田は淡々と言い返してたけど、そう言われてみれば~~、て、思い当たることもあった。  風橋さんが「いつでも顔出して」とか言ってたり、そもそも宇和島先輩って何度か213に顔出してたんだけど、部活と大学と就活で忙しい中、わざわざ来てたんだってコトも初めて知ったわけで。  ひたすら申し訳ない感じダダ漏れになってる丹生田と、いつも通りの橋田、そんでただ目を丸くしてる俺。 「まあ、そうだよね」  通る声が、空気を変えた。 「どこまで話すべきか迷ってた僕らにも問題があった」  こういうときに威力発揮するんだな、と心底思った乃村先輩の声で場が収まり、先輩たちは鉾を収めてくれた。う~~、ビビった~~。  小さく咳払いしたもう一人の副会長、島津先輩が話し始める。 「そうだな。まず、最初から説明するとだ。君たちが213に集まったのは偶然では無いのだよ」  その内容は、ちょい控えめに言っても驚きの事実ってやつだった。  俺はじいさんが風聯会の事務局長をやってたし、丹生田もお父さんが風聯会で、そんで橋田はなんと、お祖父さんとお父さん、お兄さんまで風聯会という、なんとも筋金入りの賢風寮ファミリーだったのだ。  そういう風聯会絡みで入寮する奴は、多いようで意外と少ないんだよ、と乃村先輩は言った。 「いまどきココみたいな寮って人気ないんだよね~。オシャレじゃ無いし、エアコンも無いし、友達も呼べない」  じいさんや風聯会に憧れて、絶対賢風寮に入る! と決めてた俺みてーなタイプは「もはや化石だよね」というくらい珍しいと言われ「はあ、どうも」と間抜けな感じで返事するしかなかったりして。  橋田はココに入りたくて入ったわけじゃ無く、ファミリーの説得とかで入らざるを得なくなっていた、なんて淡々と説明してた。  そんで丹生田は、ちょい複雑だったんだ。  お父さんは風聯会、つまり七星出身だったんだけど、お祖父さんが某国立大学出身で、お父さんとおじいさんはあんま仲良くない……てかぶっちゃけ悪いみたいで。  そもそも丹生田家って代々警察官やってる家系だとかで、男子は剣道、女子はひたすら家事してろ、つう家風なんだって。 「けど妹さんはおとなしく家にいるタイプじゃないみたいだね」 「……はい。保美(やすみ)は優秀ですから」  優秀な妹さんは、おじいさんに反発して、アメリカの高校に留学しちゃった。ちなみにお母さんは、離婚して出て行っちゃったんだって。  家風を重んじたいお祖父さんは、妹さんを許さんとか怒って、一切の援助を拒否ったから、お父さんがひとりで援助する形になった。  アメリカでやりたいことが一杯の妹さんには、やたらお金がかかるらしい。実はお父さん、お母さんにもお金送ったりしてるらしくて、丹生田を援助する余裕が無いっぽいってのを見越したお祖父さんは、自分の出身大学へ入るよう、丹生田に言い渡した。それなら自分が全て援助してやる、って感じで。けど丹生田は絶対に国体に出たかったから、七星に入りたかった。 「行かせてやりたいが、カネが足りない」  つったお父さんに 「学費だけで良い」  と言ったのは丹生田自身で、お祖父さんの顔を潰した形になったんで、そっちからカネは出ないというのも承知で、それでも丹生田は七星に来たのだ。 「丹生田さんは警察に顔がきくOBとして、風聯会でも重要なひとだ。その人が息子を頼むって言ってきたから、俺たちもやれることを考えてたんだよ」  剣道部から期待の新人が剣道に励めるよう、環境を整えてやりたいと言う話もあった。元保守のムロヤ先輩あたりからだろうな  そこで執行部で何度も話し合った。ひとりだけ特別扱いするってのはマズくない? つう意見ももちろんあったけど、過去に事情を汲んで執行部で色々やった例があるとか調べてたりで。なんだけど、とにかく本人と話せてなかったから話がなかなか決まらなかったんだって。  本人の意思を確認しないで押し付けるのはどうかって慎重論があったんで、宇和島先輩はとにかく話を聞きたくて丹生田に会いに来てた。けど丹生田は素早くバイト決めちゃって忙しくしてて、道場行っても無心で竹刀振ってばっかだし、剣道部の人がいるとこで出来る話じゃないし、全然話す時間を取れなかった。  先輩たちは丹生田がバイトしてるって知らなかったから、避けられてるのかと思ってたんだって。んで話出来なくても草案だけでも立てようつって話し合い、玄関脇にある保守の部屋詰めをやらせてはどうか、つまり保守の仕事をやらせて、食費込みで寮費免除待遇にしては、て感じで方針が決まりつつあった。  保守部屋には毎晩ひとりかふたりが詰めて、寮生以外の出入りを監視してる。けどやっぱ夜通しだし、みんな部活やってる人ばっかだからキツいわけで。 「常駐する奴がひとりいれば、あとは交代制にできて、個人の負担が減る。むろん丹生田がそれをやるなら負担が多くなるのだから、それに対してメシ込みで寮費免除はできると決まった。そこに風聯会からの援助するという声もあり、少しなら給料を払っても良いだろうってコトになってたんだよ」  風橋さんが丹生田に飲ませたときも、その話をしたらしいんだけど、丹生田は酔っ払って自分の話をするばかりでぜんぜん聞いてなかったらしい。  ともかく、風橋さん経由でバイトしてることを知った先輩たちは迷った。それでうまくやれるなら、自分たちが出張る必要は無い。保守の仕事を押し付けて自主性を削ぐことになるなら、それはかえって良くない。  そんな中、今回の事件が起きたってわけで、先輩たちが怒っちゃったのはそんな背景があったからだったのだ。つまり丹生田は、入寮した瞬間から注目されてたってわけ。 「風聯会で君らのひととなりは聞いてるからね。丹生田くんを勝手に補佐するだろうってことで、君たちを一緒にしたんだ」  途中から話を引き継いだ乃村先輩が言い終える。  ずっとウズウズして黙ってたけど、思わずニヤニヤして脇腹ツンツンした。 「スゲエな丹生田、超重要人物じゃん」  無言で手を押さえる丹生田にまたテンション上がってたら 「おい、他人事みたいな顔してるが藤枝、おまえも同じなんだぞ」  唐沢先輩がヘラッと言って、「へ?」とか呆けてたら「なんで分かってないんだコイツらは」とか、庄山先輩がでっかいため息ついた。  乃村先輩が「自覚はおいおいしてもらうとして」と言い、島津先輩がため息つく横で、津田会長がにんまり笑った。 「まあいいでしょー、とにかく藤枝は総括、橋田は監察に入ってねー」  とか、意味不明な命令されちゃったのである。 「はあ」  とかいつも通り淡々と答える橋田と、じっと見つめてくる丹生田に勝てるわけは無く。 「はあい」  と間延びした返事を返したのだった。  ここらへんから213の三人は、自動的に執行部の中心へと奥深く突き刺さっていくのだが  それはまた、これからの話。  《二部 完》

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