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31.天誅
監察のトップ、庄山先輩は小太りで眼鏡かけてて目ヂカラあって、めちゃ貫禄ある人だ。
トップになったのは、貫禄で他の追随を許さなかったからだ、と宇和島先輩が言ってたけど納得な感じ。なんつうか大学生には見えないし。
そんで司法試験現役合格、を目指して受けたのに見事に落ちた、と嬉しそうに言ったのは風橋さんだった。ふたりは同じ法学部でタメ。仲が良いのだ。
そんな庄山先輩が、のっそりとドア前へ姿を現し
「民法的にはツッコミどころ満載ですな」
つってニヤッと笑ったとき、店長が真っ青になったのって、きっと弁護士かなんか出てきたと思ったんだよ。
だって先輩、スーツ着てるんだもん。
ともかく、庄山先輩は店長がやっちまった法的な落ち度について、淡々と説明したわけで。大学の講義かよ、みてーな、他人事っぽい冷静な感じでさ。
店長はどんどん蒼白になって、手とかあちこち震えた状態で今にも倒れそうだった。後ろめたいことあったら、そりゃおっかないよな、理路整然としてるだけに。
「す、すぐ戻るからっ!」
とかって部屋を走り出ていった。
んで丹生田と姉崎と俺と橋田、庄山先輩、太和田先輩、畑田も含め、みんなで店長の部屋に上がり込んで待ってたわけ。
明らか野次馬的な感じで朝から参戦したのが内藤と小松と長谷。ちなみに宇和島先輩は就活があるつって行っちゃいました。元気だよね、寝てないのに。
「つかあの人、先輩のこと弁護士かなんかだと思ってビビったんだろ? だいじょぶなのかよ」
後でバレて『訴える~』とか言われたりしねえ? とか気になったんだけど、姉崎は自信たっぷりな感じでニッと笑った。
「先輩、『弁護士です』なんて言ってないよ? あのひとが勝手に勘違いしたんじゃない?」
「でも後でバレたら」
「僕らが騙したわけじゃないよ? 彼の単なる勘違い は、あるかも知れないけどね」
キラキラ衣装のまんま、いつも以上のやらしいニヤケ顔。当社比三倍増のいけすかなさだ。
「まあ、ああいうタイプは法律家とか政治家とかステイタスに弱そうかな~ってね、先輩に協力お願いはしたけど。自分の方がヤバさ満載なんだし、後で騒いだら自分の傷広がるだけだし、そこまでバカじゃないんじゃない?」
自慢げな笑みのまま笑いかけられた庄山先輩は、知らんぷりしようとしてしきれずにニヤニヤしてたんで、つまりノったわけね、とかみんな納得した。
ホントにすぐ戻ってきた店長は、汗だくなのに青白い顔でゼイゼイ言いながら封筒を丹生田に差し出した。銀行のATMんトコに置いてあるやつ。
「めっ、明細は、無いけどっ、少し多めにっ……!」
もう必死って顔で、息も絶え絶えな感じで、手とかぶるぶる震えてて、その先でもっと震えてる封筒を、丹生田は生真面目に両手で受け取り、キッチリ頭を下げる。
「ありがとうございます。短い間でしたがお世話になりました」
低く言った丹生田は、やっぱり丹生田らしくて、やっぱ惚れた。
なんだかんだ言って真面目な奴らしい畑田は、新人バイトが研修を受け、深夜をきちんとやれるようになるまでバイトを続けるから、新人をきちんと育ててくれとか店長を説得してた。
つかあんだけの仕打ち受けてて、まだ店のことちゃんと考えてるなんて、意外とたいした奴かも、なんてひそかに思っちゃって。
たぶん、みんなそんな気分になってたんだけど、姉崎がハハッと笑って言ったんだ。
「じゃあ僕が見守ってあげよう~」
なんつって、ICレコーダー見せびらかしてさ、ビクッとした店長が唇わなっと震わせるの見て、メタクソ嬉しそうな笑顔になって。
「ま・い・に・ち、味見しに行ってあげるよ~。畑田君が無事に就活できるようになるまでさ。ねえ、おじさん?」
クスクス笑いながら言われて、つまりちゃんと仕事しろよ~って脅してるわけなんだけど、
「わ、分かった」
店長はめいっぱいビビりながら答えてた。
「なにが分かったの? 毎日味見しに行くってことだけ?」
「は、畑田君の要求に応じよう。な、なんとでも、なる」
ビックリ目になってる畑田の横で、店長はすんげえイヤそうな顔だ。
うんうん、その気持ちは良く分かる。毎日あいつが来るのって、そこそこ嫌だよな。しかも姉崎、すんげー嬉しそうなんだ。嫌な予感しかしねーつの。
ぜってーただの味見で済むわけねーし!
……てか、ちょいまち。
味見って言ったよな? 食べに行くんじゃ無くて味見? うわ、もしかしてタダで毎日食おうとか考えてんじゃ! とか思ったけど黙って見てた。
だって、ついつい畑田に同情しちゃったし。就活ガンバレとか思っちまったし。丹生田も黙ってたから、きっと同じだと思う。
なんてコトはぜってー言わねーけどな!
姉崎に「お人好し」とか鼻で笑われるだろうからな!
つか畑田は、店長脅してる姉崎チラ見しながら、太和田先輩にこそっと聞いてたんだよ。
「あの人って、やっぱヤバイ人なんすよね」
とか。たぶん太和田先輩が一番優しそうだったから、そんで姉崎には妙な迫力を感じてるっぽい。
「すんません、その、ありがとうございます」
めちゃビビりながら言った畑田に、姉崎は「よきにはからえ」なんて分かりにくい時代劇の真似してたけど、キラッキラ衣装のままだから、ぜんっぜん似合ってなかった。
まあ、アイツにしたら良いことしたっぽい、とは思った。そう悪い奴でもねえんかな、とか、思いはした。
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