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90.真夏の総括部長

 アサイチでメシ食った丹生田が合宿に行くのを見送って現場復帰!  一日遊んで(しかも丹生田と!)元気いっぱいになってるわけで!  そんで今日からの俺は、一昨日までとちょい違うぜ!  ちゃんとテーマ持って動く!  部長としてちゃんと指示出す!  心配とかされてたまるか!  見てろよ浜村、ついて行きますと言わせてやるぜ!  つっても、みんなの都合でスケジュール組むのは大熊さんと仙波が帰省する前に全部やってたから、とりあえず誰より早く総括部屋に入って、変更とか無いか確認した。そんで今日のメンツ表睨んで配置を考える。  作業箇所をピックアップして、巡回役とか連絡役とか弁当受け取りは、とか昼の休みの順番とか、キャラ考えて向いてる作業にあててく。コレは毎朝やってたから楽勝。  八時半頃、部室にメンバーが揃った。  おもむろに立ち上がり、毎朝してたみたいに指示出そうとしたら田口が「みんな集まれー」とか言って、したらみんな、ざざっと俺の前に並んだ。浜村と三島もいて、真面目な顔してこっち見てる。  ええっ!? なにコレ、こんなんやってなかったよな? 「おはようございます!」  一斉に挨拶され 「お……おはようっす」  ちょいキョドって返すと、池町がくち開いた。 「とにかく作業の邪魔しない! 危険なとこに入らない! 俺らが怪我したり現場壊したりしたら本末転倒だから、コレは厳重に守って下さい。声かけてみんなの調子見るのも忘れずに。いいですか?」 「はーい」 「うーす」 「はい」 「了解~」  とか、声が返ると、生真面目な顔をこっちに向ける。 「藤枝さんからなんか無いスか」  なぜか緊張気味の顔だ。思わずニカッと肩叩いた。 「どした、リラックスしろよ」  そのまんまみんなに顔向ける。 「つか池町が言った通り、みんな怪我だけはすんなよー。そんで暑いし脱水とか気をつけてあげて。作業してるひとの体調とかも見てやって。ヤバそうだったら引きずってでも和室に連行なー」 「はあい」 「了解っす」 「大丈夫っす」  バラバラ返事が返る。  ちなみにいっちゃん最初に和室だけエアコンつけたのだ。ソコには交代で医学部が待機してくれてる。  今日は三十一歳の大原さん。この夏は帰省しないで率先して和室待機役を買って出てくれてる、めちゃ頼りになるひと。  とか思ってる間に、池町が仕事割り振りとかチャッチャと指示出し、最後に「これでいいっスか」と聞いてきた。 「ああ、うん。完璧じゃね?」  言うとニッと笑って「うす」ちょい頭下げる。  つか俺が考えたのと、ほぼほぼ同じだったんで文句のつけようが無い。今日のメンツの得意分野、ちゃんと分かってる。 「じゃ、始めようか。俺は全体見て回りながら連絡役やるけど、緊急のときは部長ここにいるから直接報告!」 「うっす!」 「はい」 「はあい」  とか言いつつ出て行く背中を見送ってたら 「藤枝さんはここに詰めてて下さい。こっから出るときは俺に連絡下さいね、俺が代わりに来るまで出ないで下さいよ。イイっすね?」  なんて池町に指示されてしまった。  ポカンとしちまったら、池町がちょい心配そうな顔になったんで、イカンイカンと自分を取り戻し、 「オッケ」  ニカッと笑って言ってやると、「うす!」超イイ笑顔になって「行ってきます!」と出てった。  なんだかなあ。張り切ってたのに出鼻くじかれた感じ。  ため息ついてたら、「あいつ張り切ってんですよ」と田口がこそっと言った。 「昨日、藤枝さん休むって分かってたじゃないですか。風聯会関連は藤枝さん呼び出すしかなかったんだけど、それは無かったし、それもホッとしたみたいですけど」 「ああ、二度目の人しか来ないって分かってたからな」 「昨日も朝に指示出したんですけど、夜のうちに考えてたらしくて、うまく回ったんで、ホッとしてんです」  はあそうですか。ちょいガッカリだ。  なんだよ、せっかくやろうと思ったのにな。池町できてんじゃん。俺いなくてもイイっぽいじゃん。 「昨日は俺がここに詰める役でした。何度も『これでいいと思うか』なんて聞いてきて、『なんか無かったか』とかしょっちゅう顔出して、うざ……一昨日までの藤枝さんと一緒でした」  微笑みつつの田口を、半目で見返す。あ~そう、ウザいって思ってんだ、とか思ってハッと気づく。俺と同じってことは! 「え! それじゃ池町がぶっ倒れちまうかもじゃん!」 「ですね。でもあいつ部長じゃ無いし、代わりは居ますから」  心理学部のイケメンは、フフッと笑った。 「藤枝さんの代わりはいないんですから、仙波先輩が戻るまで、藤枝さんはいつも通り、ニコニコしててくれれば」  つか仙波には『先輩』つけるんだ~、とか思う。 「それって俺はいなくてもイイって事なんじゃね?」 「そんなわけないじゃないですか」  ちょいふて気味に言ったら、余裕の笑みを返された。 「風聯会とのつきあい、藤枝さん以上にうまくやれる人いないでしょ? それに今年から総括が活発になって、重要なんだって寮全体が認識改めたって聞きました。俺だって藤枝さんが引っ張ってくれたから総括に来たんですよ? 適性があるって言われて嬉しかったし、面白そうだって思えたし」  田口は笑み湛えたままそう言った。  上げてくれてんだよなあ、とは思うけど、なんとなく釈然としない。つかみ所無い笑みがなんか不気味だ。ちょい姉崎と似た雰囲気あるんだよなあ、なんて思ったり。 「余裕でここに居て下さい。いざ風聯会に連絡、となったら全面的に頼ります」 「…………分かったけど。なんかおまえ要らない宣告された感じで納得いかねえ」 「だからそうじゃないって言ってるじゃないですか」  ニッコリ笑うイケメンを眇めた目で見る。 「その顔、なんかうさんくさいぞおまえ」 「やめてくださいよ~」  ハハッと声上げて笑いつつ、田口はちょい明るい色の髪を弄る。朝っぱらから、しかも寮内なのに、ワックス使って完璧にスタイリングされてる。 「まあ確かに、藤枝さんみたいな素直な性格では無いですけどね」 「……馬鹿にされてるような気がすんだけど」 「被害妄想ですって」  ふっと笑って「じゃあ、ここに居て下さいね」念押しみたいに言って出てく田口を呆けた感じで見送って、部長のデスクに座る。1階は既にエアコン設置済みなので、ここは涼しい。長く居るのも別に苦痛じゃねえけど、んでもただここにいろって───── 「まあいっか。確認することもあるし」  なんて言いつつ、PC画面に注目する。そうだよ、やることはあるんだ、ここでだって。  つってもそんなのすぐ終わるわけで。  あとはただここに居りゃ良んだろ? なんだよ簡単じゃん、楽じゃん。  ……なのにコレが意外と難しい。だって自分で動きたくてうずうずしちまうって! 「うあぁぁぁ~」  とか唸ってハッとする。  同じくヒマしてるひとがいるわけで! そこんとこ同志ってコトで話聞いて欲しいし!  つって施設部の部屋に突進した。  しかし 「大田原さん、ここの配管が通りません」 「ああ? そんなの穴広げりゃいいだろ」 「どうやれば良いんすか」 「3階に広瀬いるからやり方聞け」 「分かりました!」  返事と同時に出て行く奴と入れ替わりに新たな一人が入ってきて「済みません!」怒鳴る。 「煖房のダクトにヒビが!」 「ガムテでも張っとけ! 倉庫にメタルテープあるから持ってけよ」 「了解っす!」  施設部長はひどく忙しそうだった。  ああ~、こりゃ参考になんねえや、と施設部の前でがっかりしてたら、廊下の向こうから「藤枝さん!」池町の怒鳴り声が聞こえてきた。 「なにやってるんスか! 部屋空けるときは連絡くれって言ったじゃ無いスか!」  有無を言わせず総括部屋に引っ張り込まれる。 「施設部との連携は俺がやりますから」 「あ~、じゃなくて、部長の心得的なことを聞いてみようかなと」  ヘヘヘと愛想笑いしつつ言うと、池町はじっと睨んでくる。 「俺が大田原さんみてーにどっしりしてたら、お前らも安心だろ?」  ニカッと言うと、池町は、ふう、と息を吐いた。 「分かりました。じゃあ部長は施設部に居るってみんなに知らせときます。でも風聯会から連絡来たら、ダッシュで部室に戻って下さいよ」 「オッケ、分かった」  許可を得られたので再び施設部に行く。  さっきの嵐みたいなのは落ち着いたらしく、大田原さんはPC画面睨みつつ部長のデスクに居た。

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