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138.大バカ※
ゴクリとつば飲み込む音が聞こえそうに喉仏が動いて……おい、なんだその目。キョドってんじゃねよ。なんで死刑宣告待ってるみてーな顔してんだよ。怯えんなよ。
おまえたった今までヤリたい放題ヤったんだろーがよ。なんでちょい睨んだだけでンな顔してんだよ。
あ~~もう、くっそ! しょーがねー! ほんっとヘタレのガラスハート野郎でっ!
くっそカワイイじゃねーか!
俺ってバカなんかな? バカなんだろな。なんでコノ流れでこうなるかな? けどニヤけちまうんだ、自動的にさ、しょうがねーだろ?
「バーカ」
だからニカッと言ってやる。
「もうちょい加減しろっつの」
あからさまにホッとした顔になって「済まん」とか言いながら手のひらで額を拭う。
そんで、ちょびっと笑った。
「……元気だな」
うん、丹生田嬉しそうだ、なんてコッチもクッと笑って「……なんだそれ」返したら、丹生田はもっと安心したみてーな笑顔になる。分かりやす過ぎだろ。そんで可愛すぎだろ。
「おまえの……笑顔はいい」
――――いいなあ。
丹生田ってば最近、わりとこういうイイ顔するつか。うん、やっぱイイな。イイ笑顔だ。つか丹生田が笑ってんの、めちゃ嬉しい。
「……安心する」
つかエッチのあと元気とか安心とかってどうなの? もっとこうグッとくるようなこと言うもんじゃねえの? いやいやいやグッとくるってなんだよ。なに言われたいんだよ俺。
なんて思ってる自分がおかしくてククッと笑ったらケホッと咳が出た。
「大丈夫か」
「う~~~……喉カラカラ」
「待ってろ」
丹生田はベッドから降りて冷蔵庫へ向かった。
まあいっか、とか思って、ベッドにバタッと倒れても目で背中追ってニヤニヤしちまってる。
マジで俺って安い。今に始まったことじゃねーけど。
てかイイや。こういう奴だし丹生田って。イイんだよ丹生田はこれで。
コミュ障かってくらい言葉足んなくて、困ると顎噛みしめて、でも目が助けてくれつってるみてーな超くちべた、超不器用。だからこんなにカワイイんじゃん。
つうか逆にヘンに洒落たコト言い始めたらビックリする。つか、ぜってー引くし。超引くし。
そんななのに真っ直ぐな目とか超カッコいくて、コレで惚れるなって無理っしょ。
……あれ?
丹生田なんで冷蔵庫のドア開いて固まってんの?
「どしたー」
「……金が」
呟いて突っ立ってる。クスッと笑いながら「あ~、そりゃ」手を突いて、ベッドの上で起き上がる。
「こういうトコはな、飲み物も有料つか」
「……ああ、済まん」
とかってソファんトコに投げてあった服ゴソゴソして財布取り出した。
つうか服畳んでねえって丹生田らしくねえじゃん。どんだけ慌ててたんだ? とかニヤニヤしつつ、とりあえず風呂だ! 腹とかあちこち色んなモンでヌルヌルのデロデロ。AVとかでこういうのあったなあ、いやいやいや、出てるの自分のだし、ちげーっての。
あれ
「藤枝っ」
ベッド脇に立とうとしてガクッと膝が崩れた。つうかコケた。なんとか片手でベッドに縋ったけど、ケツぺったん床に落ちた。
「う~~~……ケホッ」
すぐ横に片膝ついた丹生田が水のペットボトル差し出す。
「飲め」
とか言いつつ蓋開けた。う~、丹生田まっぱのまんまだ~~、やっぱ超キレいつかカッコイイつか
「……ああ」
見とれそうになって、いやいやいや、とか頭振って「どうした」とか不思議そうに聞かれたから、ニッと笑って誤魔化し「サンキュ」と受け取りゴクゴク飲む。うえー生き返る。
「ふぅ~」
息吐いたらまた「大丈夫か」と聞かれ、「ああいや」髪かき上げながら下向いた。
ヤベえ腰立たねえ。普通に立とうとしたけど無理。膝ガクガクで腰も踏ん張りきかねえし、なっさけねえ~。
「……立てるか」
低く言った丹生田が腰とか抱えてくれた。
またゾクッときてビクッとしちまって、ヤバいヤバい触んなって感じで身を捩る。デロデロだし、腰立たねえとか情けなすぎて、したら上半身だけベッドに腹ばい状態になった。そっから這いずるみてーにベッドに上がろうとした。けど――――
「おい、おま……」
後ろから丹生田がのしかかってきて動けない。デカい手がガッチリ腰抑えて、首とか肩とかキスしてきて、つうか当たってる! 当たってんだケツに! なにがって丹生田のがっ!
つうかなに既に硬くしてんのっ! てかおいっ!
「うっそだろ」
挿入 ってくるっ、さっきまでヤってたから簡単にグイグイっ!
「マジ、かよっ! おま」
なんなん? もう、わっかんねえっ! どしたの、どうなったの丹生田? なんかおかしくねっ? なんでンながっついてんの? もうもう、どうなってんの!?
「さっき出したんじゃ……っ!」
「……済まん」
謝るくらいならっ! そのガシガシ動く腰を止めろっ! つか、なんっ、「あ……っ」やべ!
「うぁ……っ、くっ」
すぐキタっ! ゾクゾクッとするやつっ!
「……藤枝……」
耳や頬を舐める舌とか、荒い息遣いのまま耳囓ってたり
「……は、んぁ、ぁ、あっ」
勝手に声が出る。したら手は脇腹とか腰とかつかんだり揉んだり、そんで「ぅあ」股間に伸びた手がソコこする。も、さっきバカみてーに出たんだって、もう無理だって、分かれよバカッ――――けど全部クル、ヤベえってマズイってどうなってんの俺っ!
――――そのまんまもう一回になって、風呂は結局、丹生田に連れてってもらって、なんかガッツリ洗われた。
その後もう無理で寝ちまった。
起きるまで待ってた丹生田とホテル出たら、もう暗くなってて。メシ食って電車乗って。
なんかいつも通り。適当にしゃべって、適当に笑う。
つうか丹生田がしゃべんないのはデフォルトだし、俺がしゃべんなきゃ沈黙が続く。それも気まずいんで、適当なこと垂れ流して、バッカみてーに笑って。
そんな感じで寮に戻って、そっから通常営業。だってみんないたらテキトーに声かかるし、テキトーに声返したりして、なんかふつーな感じがして、ちょいホッとしたりしつつ部屋に入って、二人になった。彫金教室で貰った袋、机の上に置いて、ベッドに腰落とす。
やべえ、気まずい感じ戻ってる。外は平気だった。さっきまでも、みんないたら平気だった。
「はぁ~、講義飛ばしちまったな~」
なんでもいいからテキトー喋る。
「明日は二限と……」
丹生田がにゅっと腕伸ばしてきてビクッとする。
「…………」
手には袋。思わず受け取る。なんだ? 彫金のと違う袋。
「なにコレ」
おい、顎ふくれてンぞ。また歯食いしばってんのかよ。
「開けてみろ」
「……うん」
なに緊張してんだよ、なんて思いつつ袋開いたら、中は雑誌だ。結構厚みある……
「え」
手が止まった。
『買うのか』
『う~ん。……いや』
『いいのか』
「―――なんで?」
ローストビーフ丼うまかった、あのカフェ。
すっげ雰囲気良い店で、置いてる小物やインテリアもめちゃ好みで。
雑誌見てちょいテンション上がった。
インテリアってもこういう感じで見せると違う。ただ家具だけじゃなくて、空間つうか光線まで考え抜かれたみたいな、どのページもちょい感動のレベルで……そう、カフェで見てた、あの輸入雑誌。
ちょい欲しいなって思った。けどでも意外に高かったし、あん時は三限出るつもりだったし、せっかく丹生田と一緒だし、いつか手に入れたいけど今じゃ無くても、そのうちって……でも置いてメシ食って、そのまんま店出たよな?
――――それがなんで、ココにある?
「……済まん、違ったか」
目を落とした丹生田は、眉寄せて肩を落としてる。
う~~~~、あああ
「それが欲しいのではないかと……思ったんだが」
なんなの? なんなんだよコイツ?
結構、扱いひでえよな?
いきなりホテル連れ込まれてセフレにならないかって、そんな感じで。
好き放題ヤられてんのに、コイツくそったれなガラスハートですぐヘタレるし、ンでも風呂とか飲み物とか、一応優しくしようって頑張ってんの見えた。メシとか彫金教室とか家具屋とか、コイツなりに考えてたんだよな? とかも思った。めちゃ的外れ感ぱねえけど、ンでも頑張って考えてたんだコイツなりに!
分かってンだよ! ンでもかなり微妙てか複雑てか、そんでコレ、――――あ~~~もう!
だって丹生田だし!
「ばっか! こんなん」
だってしょーがねーじゃん!
「嬉しいに決まってんじゃん!」
「…………」
丹生田が顔上げて
「そうか」
ホッとしたみたいに笑った。
あ~~~~、ダメダメだ俺。
なんか涙出そうに嬉しいってなんだろ。バッカみてー。けどしょうがねーじゃん?
やっぱ好きなんだもんよ?
顔も声も身体も、ちょいヘタレでガラスハートなトコも、まっすぐでぶれないトコも、剣道やってるトコも勉強してるトコも掃除してるトコも
「……サンキュ」
丹生田の全部――――好きなバカ。
俺って、そういう、大バカなんだなあ。
《9.変化 完》
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