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175.週1回、とか
「藤枝。……一緒に住まないか。いやでなければ」
呆気にとられる……て、こういうコトか、──────なんて実感してる場合じゃねえ!
てかなんてった?
丹生田おまえ今、なんてった!?
怒ったような激マジな目つき。あ、ちょい笑った。強 ばってるけど、確かに笑った。
なんかちょい、癒されて、喉がちょびっと機能を取り戻す。
「あ~……」
声出た。けどなに言えば?
「同居するなら、俺は藤枝が良い。……いや、藤枝以外は無理だ」
軋むような低音で、丹生田はそう言って、ものっそ真剣な、睨むような目でこっち見てる。
えーと、同居、って言ったよな? 丹生田と、ってことだよな? えーとつまり?
つまりだから、同居、なんだから一緒に、住むって、コト……?
え、でも、でもだって卒業したらなんとなく疎遠になって、そのまんま距離が離れて……なのに
「……同居?」
「そうだ。藤枝」
額に汗滲ませてうっそり頷く。
え、じゃ違うの? もう終わりじゃねえの? どゆコト? でも……
視線の先、ものっそ緊張した顔の丹生田の唇が震え、囁くみたいな微かな声が
「こ……これからも、一緒に…………」
それっきり声は途絶え、でも唇は震えてて。
「……え、てか、」
じゃあ、え? これからもセフレってコト? そゆこと? なんか?
まっすぐな強い視線見返しながら、パニクってくる。
一緒に住む。同居する。
つまりセフレ継続?
それとも友達として、大親友として、てこと?
けど、けど、けど……
いいだけ熟して発酵の域に達しそうな想いが、胸を締め付ける。
──────だってエッチするたんびに切なくなってんだぞ? このまんま、親友として、一緒に住む、なんて……それって毎日が拷問、ぽくね?
パニクりつつ、そんでも丹生田から目を離せねえ。
まっすぐ、なんか怖がってるみたいな目で、まっすぐ過ぎる目で、コッチ見てる。
ちょい息し辛い。ヤベヤベと目を伏せた。
うあ、どうした俺。息が詰まったみてー、バカ呼吸しろ、ホラ吸え、吐け、
すぅぅ、はぁぁ
てかドキバクぱねえ。
てか、てか! てか俺! どうなんだ俺!
……これからも丹生田とエッチしたいんか俺!?
なんて考えたら、身体の奥が疼くみたいに、ちょい熱くなって、そんな気がして。不規則に息吐き出しながらギュッと目を閉じる。
─────くそっ、そうだよ。
したい。触れたい。見てたい。これからも、ずっと─────
胸の奥から湧き上がるような、ソレが本音。
うん、それでもそばにいたいんだ。だっさいけど、覚悟してたつもりだったけど、……離れたくなんてねえ、んだ。本音は。自分の中で出た答えは……
コホンと空咳が喉から漏れ、それは少しだけ、喉のつまりを緩めた。
目を合わせらんないまんま、吐き出した息と一緒に、ようやく声が出た。
「……あ~、いいけど」
声は、掠れた小さな声になってた。
触れて触れられて、キスもしてーしエッチもしてえ。……ソレが叶えられるんだったら──────開き直るしかねえ、だろ?
……ただの同室だった頃と今は違う。分かってる。だってもう知っちまった。
丹生田の肌、息遣い、ナカを侵すあの感触…………熱。
一緒に住む……てんなら、ぜってー触りたくなるに決まってる。
てか触るだけじゃ満足出来なくなってんだよ、もう。
だからむしろエッチ無しで同居とか、その方がキツい。俺だって丹生田に触れたい。キスしたい。エッチだって……
そこまで考え、すぅぅ、と息を吸う。ちょい落ち着いた気がして、ふう、と小さく息を吐く。
くそっ、今度こそ覚悟決めろ、俺!
目を上げてニッと笑う。
さっきと同じ姿勢で見下ろしてた丹生田の、目が少し見開かれた。
うん、やっぱカッコカワイイ。
思わず笑っちまう。
したら丹生田は、限界まで目を見開いて、ゴクリと喉を鳴らした。
ソレに励まされ、くちを開いた。
「けど」
ものっそ真剣な目。
「同居すんなら、その」
バクゥ、と心臓が高く打つ。
これから言おうとしてること、言ってイイの? イイのか俺?
なんてアタマん中グルグルする。心臓バクバクバクバクうるさいくらい。
コッチも睨むみたいに見返す。ニカッと笑って気合い入れる。
「エ」
けどやっぱ喉詰まる。ふいっと目を逸らしちまう。
「エッ……」
だって目を合わせてとか、ハードル高すぎ。だって丹生田、ものっそ真剣ぱねえ目で、めっちゃ睨んできてるし、もしかして息もしてねえ? てか俺も息してねえ。やべやべ、深呼吸、そだ深呼吸だ。
すうぅ、はあぁ、すぅう……
ええい!
ビビんな!
言っちまえ─────!!
「エッチ、込み、つう、こと、で……」
なのに声は先細り。
無理だって! もー目とか見らんねえって!
「そ、そういう条件で、イイんなら……」
ぐぅぅ、と喉の奥が鳴るような音。丹生田が全力で息を呑んだときの音。ビックリしてる。だよな、きっとエッチ無しで、とか考えてたんだよな。けどもう引けねえ。エッチ無しで同居なんて無理、ぜってー無理なんだから……けど沈黙痛え、なんか、なんか言わねえと
「そだな、あ~……、週一回、とか、決めてさ」
また沈黙。息の音もしねえ。
てか痛え~! 沈黙痛えよ! なんか言えっての! 俺もうこれ以上無理だかんな!
ふぅぅぅぅ、とか、息を吐き出す気配。ちょいホッとする。
そんで、低い、囁くような、ちっさい声が。
「……もちろんだ」
ハッとして顔上げる。
怒ったような顔で、くち真一文字に引き結んで、目が合ったら丹生田は、くっきり頷いた。
誠実でまっすぐ。
丹生田は、少なくとも俺に嘘は吐かない。
嘘つくくらいなら黙る。
それが丹生田だ。つまり、……本気で……イイって言った。
今さらみたいにどっと汗が噴き出す。顔とか耳とか熱い。きっと真っ赤になっちまってる。
けど──────
一緒にいられる。丹生田と。これからも。
やっぱ、それ嬉しい。
もう逢えなくなるって、そう思って諦めてたんだ。
なのにまだ一緒にいられる。
これからも、異常に仲イイ、それキープで。
嬉しいのとドキバクと言っちまったことと、パニクり気味で、ンでもやっぱ嬉しくて。
また目を伏せてしまいつつ、汗が噴き出すのもとまらないまま
「んじゃ、その」
漏れたのは、蚊の鳴くような、ちっさい声。
「こ……これからも、一緒だな」
「ああ」
揺るぎない低い声が耳に届く。
「よろしく頼む」
やっぱめちゃちっさい、けど低い声が耳を打ち。
ククッと笑っちまってた。
もういいや。色々考えるのめんどい。
イイじゃん、オッケなら、それでさ。
《12.卒業 完》
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