アタマの芯が熱い。 　なんかワケ分かんないけどキスしてきた丹生田を避けるなんて、もちろんできなくて、気付いたら丹生田のと自分のが直で触れてて、カアッと熱くなったアタマのまんま、丹生田が超可愛くて意味不明に盛り上がって──────出ちまってた。 　こういうコトするとき、丹生田はいつも可愛い、けど今日は──────必死な感じがめちゃ可愛くて……いつも以上に、なんか超必死な感じして…… 　んでなにげに盛り上がって、でもコッチがなんかする前に丹生田が、今までこんなコトあったっけ？　とか思うくらい焦ってる感じで、勢いに飲まれる感じでなすがまま、つか……てか！ 　おいおいココ、ソファだよ？　風呂だって入ってねえし、丹生田ってばスーツも着たまんまだしナニやってんだよ？ 　そう思ったらめっちゃおかしくなって、ククッと笑ってた。 「藤枝」 　めっちゃ息荒い。スーツも着たまんま、ネクタイも緩めてねえのにちんこだけ出して擦りつけて……どんだけだよ。どんだけヤリてえんだバカ。 「アホ。がっつくな」 　間近な顔が、苦しそうに眉を寄せ「しかし」きしむように声を絞り出す。 「藤枝に避(さ)けられると、俺は……」 「あ～……うん」 　そっか。 　コッチは心配かけないようにって考えてたんだけど、丹生田からすれば避けてる感じに見えたか。 　だよな。なんで気づかねえンだろ俺。 　ンでも、でもでも、顔見たらダラダラ垂れ流しそうになんだもん。しょーもねえ自分のことで心配かけちまうとかダメっしょ。それってヤベえじゃん？　だよな？ 　なんてパニクってたら、声が降ってきた。 「俺は、……頼りなくは、無いのだろう？」 　丹生田のまっすぐな目が見下ろしてくる。 「ならば、聞かせてくれ。なにか、あったのか」 　めっちゃ一所懸命だ。 　てか、いつもじゃん。 　そうだよ、丹生田はいつだってまっすぐで一所懸命で、そんでガラスハートだけど頼りなくなんてねえよ？　心配させてごめんな？ 　てか伊勢とか幸松たちだって、心配して来てくれたんだよな。小松なんて現場見てるわけだし、ほっとけねえとか思っても不思議じゃねえ。でも職場で表だって動けねえよな。小松までディスられちまうモンな。そんでも「一緒に帰ろうか」って声かけてくれた。 （なのに俺、なんつってた？） 『なんでもねえっつの、うるせえなお前ら。てか、もう飲むなって！　つうかそろそろ眠いし。めちゃ疲れてんだよ、帰れよお前ら！』 　そんなん言って、ほぼほぼ追い出すみてーな勢いで帰らせて。 （なにやってんだ俺。最悪じゃん。マジ馬鹿じゃん） 　自分が嫌で、ギュッと目を閉じる。 「……聞いても……」 　低い、呟くような、微かな声。 「……俺などが聞いて、……なにも出来ないかも知れん。だが……藤枝が」 　だけど必死な、そんな声で。目を開くと、まっすぐ見下ろしてくる、超マジな目で。 「藤枝が、聞いてくれた……祖父や、母や、妹や……藤枝が聞いてくれて、俺は、……とても助かった。だから」 　なんも言えずに呆然と見上げてる、その目の前で、丹生田はあえぐようにくちを開き、そして閉じ、また開く。 「聞くだけ、それしか出来ないかも知れない、いやできないだろう。俺にできることなど……だが、それでも……」 　丹生田はゴクリとつばを飲み込んだ。そして意を決したように目力が増し、くちを開く。 「聞きたい。聞かせてくれないか。藤枝の……力になりたい」 （うわ……めっちゃカッコイイ……） 　呆けたような顔になってる自覚も無く、「俺……」言っていた。 「なんか俺、会社でディスられてて……」 　息を呑んで目を見開いて、そして丹生田は 「そうか」 　低く呟いて、目を細め、髪を撫でた。それに励まされるように、喉から、なっさけない声が出た。 「てか、分かってンだ、なんでか、なんて。俺が悪いんだ。やり過ぎたんだ。俺が悪かったんだよ。寮とおんなじにやりゃイイって勝手に思って……やり過ぎちまった」 　言いだしたら、なんか止まんなくて、丹生田の両腕掴んで見上げながら、どんどん必死になる声が止まんなくて 「でも会社は違うって、分かったんだけど……分かったんだけど、いまさらどうしたら良いか分かんねえんだよ。……なあ丹生田、俺どうしたらいい？　やっぱ会社やめた方がイイのかな？　ンでもそんなんしたらアサっちに悪いってタイおっちが言うんだよ。ンでも先輩たちとか、小松とか、俺がいたらヤじゃねえかな。やっぱ会社やめた方が……」 　いつの間にかキツく眉を寄せていた丹生田が、グッと肩を掴んだ。そんでギュッと目を閉じて……、ふう、と息を吐いて……。 「藤枝が辛いなら」 　聞こえたのは呟くような低い声。 「好きにすれば良い。それで後悔しないなら」 　そうして身を倒してきて、……優しく抱きしめられた。 「藤枝が何をしようと、どこにいようと、俺はここにいる」 　耳のそばで、囁くような低い声が続く。 「そばにいる。それくらいしかできない。俺にできるのはその程度だ。……だが、決して離れない。そばで見ている。藤枝のやることを尊重する」 　いつになくいっぱいしゃべってる丹生田の声が、だんだん消え入るみたいに小さくなって、「だから……」ふう、と吐く息が耳にかかり……。腕に力がこもった。 「だから、……藤枝は、思う通りにすれば良い」 　次に聞こえた声は、力を取り戻していた。 　大きい声じゃねえ。けど揺るぎない、いつもの丹生田の声。 　顔は見えねえ。なぜって抱きしめられてるから。 　ソファの上で、羽交い締めみたいに押さえつけられてる感ぱねえけど、耳んトコに息がかかってる丹生田の息が。 　……なんも言えずに、身動きもできずに、黙って聞いてて……息が少しずつ弱くなってきて…… 　────え？　ちょい、え？　息が……止まってね？ 　腕の力も抜けて、どしっと体重がかかって──────え？　え、……え？　なになに？ 　どした？　だって息してなくね？　なんで……てか、ちょい、もしかして死にそうとか！？ 　──────やばっ！！ 「丹生田っ！」 　パニクって怒鳴りながらバンバン背中叩く。 　したら重かった身体がバッと浮き、「どうした！」めちゃマジ顔で丹生田が怒鳴った。 「えっ？　なにだいじょぶなの丹生田？　死んでねえ？」 「なにを言ってる！」 　また怒鳴った。 　生きてる。丹生田生きてる。てか元気っぽい。 　ホッとしてチカラ抜けて、目も閉じてふぁ～とか息が漏れた。 「良かったぁ～～～」 「どうした」 　慌てたような声が降ってきた。目を開くと丹生田は、キツく眉を寄せて心配そうだ。 （なにウジウジしてたんだろ俺） 　そうだよ、俺ってラッキーなんじゃね？ 　入りたい大学に入って、入りたかった寮に入って、イイ先輩も仲間もいっぱいいて、後輩もたくさんできて……サークルで勉強したから、会社でもなんとかついて行けてる。寮で色んなコト経験して、だから俺みたいなアホでも、あんなデッカい会社でやってけてる。 　そうだ、そもそもアサっちのおかげで就職もあっさり決まったんだ。本来なら俺程度、入れる会社じゃねえのに。 　それに丹生田と、こうして一緒に生活できてんじゃん。 　ぜってー無理だと思ってたじゃん。卒業したら離れ離れになって、自然に距離が開いて、……そんな風になるんだって諦めてたんだ。 　なのに今こうしてる。丹生田の体温、こんな近くで感じて、……丹生田はそばにいるって、そう言ってくれて……めちゃめちゃラッキー、それ以外考えらんねえくらい、超絶ラッキー。 　そゆことじゃん。 　そう思ったら、なんだかあり得ないくらいホッとして、ニカッと笑ってた。 「……藤枝……」 　丹生田もなんだかホッとしたみてーな顔してる。 　てかめっちゃ笑えねえ？　だって二人してちんこ出して、下半身くっつけたまんまで、なのに丹生田ってばネクタイも緩めてねえし、俺も袖たくし上げただけでワイシャツ着たまんま、風呂の用意したそのまんま。なんだコレ。 　ぷっ、と吹き出し、クククッとか笑っちまう。 　だってめちゃマヌケで、笑うしかねえじゃん？ 　したら、ムクッとした。なにがって丹生田のが。だってくっついたまんまなんだもんよ、バレバレに分かるっての！ 「おま……」 「済まん。だが……」 　さらにムクムク硬くなってくモンを、グリッと押し付けてくる。 「こんなときに、……まったく俺は……」 　呟くみたいな低い声、そんで眉間には深い縦皺。奥歯を噛みしめた丹生田の顎が膨らんでる。 　……ああ……マズイ……めっちゃ…… 　めっちゃ、めちゃくちゃ安心する。 　なんだろ、盛ってる丹生田に安心するってアホか。でも…… 「ヤろうぜ」 　ずっとそばにいるって……それってこういうコトあるから、かもだし……それに 「おまえとヤんの、めちゃ気持ちイイし」 　好きなやつとヤんのが、一番気持ちイイって。 「ヤろうぜ、丹生田」 　──────知ってんだ、俺。