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206.真剣な二人
朝一の飛行機で旭川へ飛んだ。
なにしにって、そりゃ当然、大鳥さんと照井さんの進捗確認に。
正直イマイチ心配な感じもありつつ、使えるモノを作れるか確認してOKなら、つう佐藤さんや社長、部長の限定条件出たからタスクを課したわけなんだけど。
あのふたりが作ったモノを扱うってことになると、それは六田家具として新しい業務展開になる。
社長にはやりたいことを突き詰めて、納得出来るイイ家具を作って貰いたい。みんなそう思ってる。
けど今は経営上の理由で、そうとばかり言ってらんなかったりするわけ。
例えば店舗で使う什器だと「百年使えなくても良いよ」て話になりがちで、受注に至らないことが少なくない。はっきりとコストが理由で。
デザインや質感が気に入って貰えても、価格帯が折り合わないんだ。なんで営業としては、なんとかコスト下げて受注しようなんてコトも考えざるを得ない。
うちの職人たちって社長のコンセプトを形に出来る高い技術と、仕事に対する高い意識持ってやってくれてんだけど、社長信者っぽいとこあって、高い意識に反することはやりたがらない。薮原さんもそのセンから外れたデザインは起こさないし、そこらへん手を抜いて、なんつって頼み込んでも、文句タラタラ。
「俺のココまでの研鑽を潰す気か!」
なんて酒飲んで暴れる奴がいるくらい。
ソコを曲げてくれるよう説得して受注して、なんとか利益上げてるトコある。んだけど、それじゃ本末転倒だって意識も、みんな持ってるんだよ。
百年使える家具つう社長の信念は揺らがないし揺らがせちゃいけない。社長には一切の妥協なく、最高のモン作って欲しい。
みんなそう思ってるんで、社長の仕事を守るためにも、利益の出る部門を立ち上げちゃどうだってのは、前から出てた話だった。
つまりもうちょい安価な、違うコンセプトのものを用意したい。それで経営安定させて、社長の物づくりを邪魔しないで済む余裕を作りたい。
そういうのがあったからこそ、佐藤さんも俺を大鳥さんに会わせたんだし、社長や部長も彼らの成長に手を貸した。つまり二人の研修は、ただの親切ってわけじゃなく、試験期間でもあったわけ。
ふたりはかなり特徴ある性格だったけど、そこが職人気質にはウケたっぽい。なんだかんだ良好な関係が築かれて、一番問題だった大鳥さんの意識が変わってきたし、照井さんもかなり積極的になってきてる。
彼らの作るモノなら、社長の家具と比べてかなり安く出せるし、あれは特徴がハッキリしてるから売り出しやすい。つっても六田家具として売る以上、いい加減なモノは出しちゃダメなんだ。
そこで今回のタスクだ。
まずはデザインを見させてもらって、実際形にして貰い、それでOKとなれば、うちの製品として軌道に乗せられる。だから二人の製品作りについては社としても重要事項なんだ。
なんだけど、メールとか電話とかで連絡取って、めちゃ心配になって「どうかな!? イケるかな!?」とか周りのみんなに聞いちまったりしても
「大丈夫なんじゃないですか」
なんて佐藤譲が冷静な声返すくらいで、みんなは黙々仕事してたり店舗周りに出かけたり、て感じでスルー。
まあ営業はみんなめちゃ忙しいからしょーがねーんだけど、黙ってらんねーつか気になってしょーがねーつかジリジリするつか。
したら部長に
「きみ鬱陶しいから見に行ってきなさい。飛行機の中で出来る仕事振るから」
なんて言われちまったという。
空港でレンタカー借りて、まっすぐ大鳥さんの工房へ向かった。
先日連絡取ってみたとき、照井さんが言ってたんだ。
「てっちゃんが熱くなりすぎてて、話が進まないんす」
それが気になって気になってしょうがなかったワケなんだけど、車降りたらさっそく
「だから継ぎ方!」
外まで響いてくる大鳥さんの怒鳴り声が聞こえ、やってんな~、なんてニヤケつつ開けっ放しの入り口から工房に入る。
「これじゃすぐ外れるって!」
「そうじゃなくて、釘打つんだよ」
「ココはきれいに継ぐんだよ! すっげえきれいに継いでやるって!」
「でも釘で強度は出るよ。角に飾り付けるんだし、釘は隠れる」
「だから! そんなダッセェこと、やらねえって言ってるだろ!」
声はめちゃ言い争ってるけど、肩を並べて図面らしきモノを見てる。仲よさそうじゃん、なんてやっぱりニヤケながら声張り上げる。
「ども~、調子どうスかぁ~」
地声でもかなり大きいと常日頃言われる声を張ったから、ビクッとした二人が同時にこっち見た。
「……藤枝さん。お疲れ様です」
「ちょっと聞いて下さいよ! コイツここに釘使う、つうんですよ! 超ダサくないですか!?」
「……あ~、カップボードすか」
テーブルや椅子と違って、カップボードや本棚、チェストなど、平面の組み合わせになる家具も鉄を入れたデザインにするってトコで、二人はかなり苦戦してるようで。
メールで送ってきたデザイン画だと、側面や棚板に装飾つけることになってる。なぜなら角に鉄の装飾入れるデザインを描いた照井さんに「これじゃ民芸品だろ、チョーだせえ!」と大鳥さんが騒いで描き直しちまい、それを送ってきたから。なんだけど正直イマイチなんだよね。佐藤さんはちょいちょい様子見に行ってくれてるんだけど
「ぼくは本職じゃないからねえ、分かってないって感じで、大鳥君は聞き流してる風なんだよ。なかなか話が通じない」
なんて言ってたんで、こっそり照井さんに電話してみた。
「強度の面から言っても角に鉄を使いたい」
照井さんはそう思ってるんだけど、大鳥さんは頑なに民芸調にはしたくないって言い張って、どうにも噛み合わないってことだったんだ。
「そういうんじゃないって言っても聞かねえし、俺のデザインもちゃんと見ねえんです。熱くなりすぎてんですよ。ああなると俺の言うことなんて聞かねえから」
そんで気になっちまったワケなのだった。
「大鳥さん、一回落ち着きましょうか。照井さんのつくる装飾は植物的でアシンメトリーなデザインなんで、民芸調にはならないですよ」
なんつって、興奮してる大鳥さんをなだめつつ、民芸家具調とはまったく違う、金属の装飾が入った欧米アンティーク家具の画像とか見せる。
「……こういう感じなら、悪くねえですね」
一緒に画像を見ていた照井さんも、
「俺だって調べた。見ろって言っても、てっちゃん聞かねえから」
とか言いつつ、装飾部分のイメージ画を出してきた。
雪浦さんも言ってたけど、照井さんのデザインって独特なんだよね。宿り木みたいにまとわりつくようなフォルムから木の実みたいなのがくっついてたり、葉っぱの造形が意外とリアルだったり、よく見るとちっちゃいテントウムシがいたりして。
見せてくれたデザイン画は金属部分をアシンメトリーに絡ませる感じで、ココから民芸調なんて誤解には行かないはずだけどなあと思う。
つまりマジでまともに見てなかったんだ。
なのに俺がひとこと言ったらちゃんと見るんだから、照井さん相手だと、ホントにワガママ爆発するんだよな。甘えてんじゃねえの?
そんで照井さんも、そこで怒鳴ったり頑張ったりしないトコあるんだ。諦めちまうつうか。
(マジで面倒くさいなこの人たち)
なんて考えを極力顔に出さないよう努力しつつ、二人の意志が統一されるまで付き合ったのだった。
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