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エピローグ 220.開設式
天高く馬肥ゆる秋。
そんで真っ青な秋晴れ。
二筋の雲の掠れたような白だけが深い青を横切り、陽光に照らされた赤や黄の紅葉が鮮やかに映えている。そんなお日柄もよろしい中、第二販売部の開設式が開催された。
空き倉庫だったココを買い取って補修して、隣に建てた二階建ての事務所と繋げたんで、経費も少なく済んだ。空港近くだから、飛行機からも見えるようにってコトで、倉庫の壁面にはデッカく社名が入ってて、屋上にもデカデカ書いてある。そんで『六田家具』ブランドもアピールしてる。
社員全員が来てるのは、会社休業にして体 の良い社員旅行にしちまったから。つうかみんな家族連れてるし、彼氏彼女連れてきてるのもいる。あきらか観光モードだ。
とはいえ地元採用の社員たちは、俺や佐藤譲と共に準備とかで大忙しだったんだけど。
T&Oからは社員全員来てくれて、町長をはじめとした町のみなさんもたくさん来てくれた。もちろん佐藤さんもいる。
いつもはあんまり顔を出さないウェブ担当の妹尾さんも今回は来てて、ホームページに載せるつって写真撮りまくってる。地元地方紙の取材も入ってるし、なかなか大事になっちまってるんだけど、その原因の一つは姉崎だ。
さすが有名人つうか、話しかけたり名刺交換するひともいっぱいで、地方紙もちゃっかり取材してるし、スマホとか向けまくられてるけど、姉崎はニコヤカに撮られてる。これはもうSNSに流れまくるの決定なんじゃねーかな。会社的には客寄せ作戦大成功だ。
駐車場に並べた平台の上に簡単な食いモンとか飲み物とか並べて、社長が挨拶して、和やかに飲み食いしてるだけなんだけど。雨天用に用意したテントはロゴ入りの自社製品なんで、晴天だけど立てて社名アピールだ。
賑わってるな、なんだ? なんて集まってきた近所の方々とかも、地元採用組が、どうぞどうぞと招き入れてるし、思ったより人集まってるし宣伝になるんじゃねーかな。なるといいな。
てか日程教えてねえはずなのに、なぜか橋田と峰と、小松や伊勢、田口や仙波も来てた。みんなちゃんとスーツ着てる。休みの日に遊びに来るときとちげーし、なんか新鮮。
小松は奥さんと、峰なんて子供も連れて来てた。小学生くらいのカワイイ女の子と男の子で、峰に似なくて良かったなあ、なんて思ったりして。
仙波なんて出不精だし、めちゃ久しぶりだったし声かけたかったけど、とりあえず取引先関係のがこの場は先だ。
てか橋田が水無月と一緒に来たからビックリ。なんかすんげえ仲よさそうで、もしかして付き合ってんの? なんてちょいビビる。ゼンッゼン知らんかったけど、いつから?
ンでも丹生田も他の連中もフツーにしてるし、もしかしてみんな知ってたの? なんて思いつつ、みんな溜まってるトコまで行けなくて、橋田がうろちょろしてたんで、近く来たとき声かけようと思ったんだけど
「いいね、こういうの、リアルで」
とか呟きながら写真撮りまくってて。
「ひとの会社でなにやってんだよ」
「取材だよ」
カメラのぞいたまんまで言うし。相変わらずコッチ置いてけぼり感ぱねえ。
したら横にいる水無月がニッコリして
「藤枝くんおめでとう。久しぶりだね」
とか言って、
「うん、わざわざありがとうな」
なんかヘラヘラしちまったという。我ながら絞まらない……けど、なんて声かけたら良いか分かんなかったし、ニコニコしてくれて助かった。
姉崎に呼んだのは文句言ってやろう! とかって思ったのもあったんだけど、コッチも大車輪で忙しかったし、やっとちょい手が空いたと思ったら、妹尾さんと保美と3人で、めっちゃ流暢に英語で歓談してるんで近づけねえ。
つうかそれより! 保美? なんでそんな格好?
アレってドレスだよね? しかもかなり煌びやかな、パーティー的な! 髪型とかもめっちゃ派手派手しくて、ただでさえ背の高い美人で目つき鋭いから目立つのに、ハッキリ言って浮いてる。が、保美は宇梶並みの鋼メンタルだ。まったく気にしてないっぽい。
そんで、なぜか────
「上天気でなによりだ」
「ああ」
「北海道は久しぶりだな」
「そうか」
丹生田の親父さんが来てるのだ。
明らか仕事休んでるっぽいんだけど、だいじょぶなの?
そんでさらに不思議なことに
「失礼いたします。丹生田さんでいらっしゃいますか」
うちの両親も来てる。日程とか教えてねーんだけど?
開設式の準備中、いきなり二人して来たから超ビックリしたんだけど、そん時はフツーに洋服だったよね? なんで着物着てんの、お袋? てかあんときはマジで忙しかったから話す暇とかねくて、やっと少し手が空いて話せるか~、とかって見つけたら、なにコレな状態になってて。
「愚息がお世話になっております。藤枝でございます」
「これはご丁寧に」
「お顔立ちが息子さんとそっくりでらっしゃいますね」
なんか和やかに藤枝家と丹生田家が対面してんだけど、コレなに? どゆこと?
「てか丹生田、なにアレ、どうなってんの?」
変な汗かきつつ聞いたけど、「俺は保美に日程を言っただけだ」とか言うだけで、動揺は微塵も見えねえ。いや確かに保美は昨日来て、すっかり引越終わってたんで、1ミリも手伝いしねーで酒飲んで寝てたし、なにしに来たんだよ! て感じだったけど、どゆこと?
パニクりかけてたら佐藤さんがスッと近寄ってきてた。
「藤枝くん」
すんげえ機嫌良さそうに笑ってるし。
「あのひとが知り合いだなんて、どうして教えてくれなかったの」
目線で示してるのは姉崎だ。
「え、いや! 大学の寮でタメだっただけで」
「彼と面識得られるなら、僕も今後やりやすくなる。こんな使える人脈、隠していたのは問題だね」
「や、あいつそんな使われてくれないんじゃねーかな」
「もちろん一方的に利用しようなんて思ってないよ。互いにメリットがないとね。というわけで紹介してくれ」
「……はあ」
つうわけで、固まってしゃべってた保美もまとめて紹介したんだけど、そこだけ欧米か、つう感じでハグしたり、握手したりして。妹尾さんも含め、やっぱり英語でにこやかにしゃべってる。
「I have a keen interest in your friend. But he lacks self-awareness. He needs a good observer like me. You'd think so, wouldn't you?」
(私はあなたのご友人に、かなり期待しているんですよ。ただ自覚が足りない。彼には優秀なオブザーバーが必要でしょう。私のような。そう思われませんか)
「Yeah, he's got great ability. And he's totally oblivious to it. I used to feel indescribable anger, but I later realized that the emotion was something called jealousy.Just a laughing-stock definitely」
(まったくその通り。良い能力を持っていて、気づいていないですよね。以前、僕は抑えがたい怒りを抱いていたことがありますが、それが嫉妬だと気づいたのは、だいぶ後のことでした)
「Everyone is unnecessarily rude. I understand that you are evaluating Takero's Better Half. But don't forget your respect for him.」
(皆様、失礼ですね。健朗の配偶者を軽んじないで頂けます?)
「Uh-oh, Don't argue. Just get along.」
(まあまあ、ケンカしないで、仲良くね)
簡単な英語なら分かるんだけど、なにげに高度な会話っぽくて、なに言ってンだか分かんねえ。
しかもみんなこっち見てニヤニヤしてるから気持ちわりい。
「なんだよ、なに見てんだよ」
「いやあ、みんな君に期待してるってさ」
ヘラッと笑った姉崎が肩を叩いて、ニッと笑う。
「まあ、いずれこうなるって思ってたけどねえ」
「なにがだよ」
「だから、おめでとう藤枝、心から祝福するよ。良かったね」
姉崎は、いやに優しい笑顔だった。文句言おうと思ってたのに、思いっきり気が削がれて「おう、サンキュ」なんて返しちまう。
てかなんだ、やけに大袈裟だな、支所開設くらいで……まあコイツ昔っから言うこと大袈裟だし、今さらか。
「ていうか、今日来たのはね、謝っておきたかったから、なんだよね。あの頃僕は……ちょっと素直じゃ無かった」
しかも、そんなん言われるとか想定外過ぎて、はあっとため息が出た。
「……ちょっとじゃねえだろ」
「ははっ、そうかもね。とにかく……あのときはゴメンね? 僕もずっと気になってたからさ」
眉尻を下げた、こんな笑顔の姉崎は見たことねえ。なんつうか照れくさすぎて苦笑しちまった。
「なんだよ今さら。てかもういいよ」
「ありがとう、ホッとしたよ。意外と時間かかったけどね。本当に……」
が、続けて両手を広げながらの通る声に、
「結婚おめでとう!」
「は?」
アタマ真っ白になった。
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