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第5話
「はぁ?お前馬鹿かよ?なんでそんな話になってんだよ?」
「だって未だに分かんないんだよ。高志が、ナヨナヨしてるこんな俺のどこが良かったのか」
「は?」
「格好良くて人気者の高志が、何の取り柄も無い俺のどこが好きだったかなんて、全然分かんないんだよ!」
高志は唇をグッと噛んで、今にも泣き出しそうな顔で俺をしばらく見つめてから、自身の黒いリュックのチャックを開けて、中から茶色い包み紙をこちらに差し出した。
そこには青いリボンも付いている。
「とりあえずこれ開けてみ。こっそりだぞ、こっそり」
「え、なに?」
言われるがままそれを受け取って、マスキングテープをゆっくりと剥がして中身を覗きこんだ。その中には、女性物の白のワンピースが入っていた。
「何これ」
「誕プレ。お前来週、誕生日だろ」
あ、と思って高志と目を合わせた瞬間、出ていた涙も引っ込んで、カーっと顔が熱くなった。
もしかして。
「来週ちゃんと渡したかったけど、誤解させとくのも嫌だから。葉山には、買い物付き合ってもらってただけ。もしかして浮気してると思った?」
「だって最近、すぐ帰っちゃうし、俺といる時もスマホばっか見てたし」
正直にそう言うと、高志はバツが悪そうに頭を掻いた。
「あー……悪かったな。未樹に喜んでもらいたくて、ネットで調べたり、放課後もこういう所に来ていろいろとリサーチしてたんだけど……たまたまこの間、葉山にここでばったり会ってさ。未樹と付き合ってる事は内緒にしたけど、彼女に似合うプレゼント探してるって言ったら一緒に考えてくれたんだ。で、さっき、それ買ってきた」
制服を着た男子高校生二人が、レディースの店でワンピースを購入するなんてどれほど恥ずかしかっただろう。
いや、恥ずかしいのは自分だ。
勝手に思い込んで、一人で気持ちを突っ走らせてしまった。
「似合いそうだなと思って。未樹に」
少し恥ずかしそうに視線を宙にさ迷わせる高志は、きっと想像してる。
俺がこれを着た状態で、嫌らしい事をしているのを。
照れながら、袋を包んでテープを貼り直していたら、高志は「てゆーかさ」と言ってベンチに座り直した。
「さっきの何?ナヨナヨしてて、何の取り柄も無い俺、とか。どこが良かったの、とか。何で君はそんなに自己評価が低いのかなぁ」
さっきは咄嗟に言ってしまったけど、それはいつも思ってる。
何で高志は俺なんかを選んでくれたんだろう。他にカッコよくて人気者の奴なんて沢山いるのに。
黙っている俺に、高志は柔らかい笑みを向けた。
「未樹の顔が良かった」
「えっ」
「なんてな。もちろん顔が好みだったってのもあったけど、分かんねーよ。初めて未樹を見たとき本能で思ったんだ。こいつはきっと、俺の運命の相手なんだってね」
高志はちょっと漫画の読みすぎなんだと思う。なんか中二病みたいだなって思うとおかしくて、吹き出してしまった。
「笑うなよ。そう言う未樹は俺のどこが良かったんだよ?」
「え、俺?それは……」
ぱちぱち、と目を瞬かせる。会話が止まってしまい、今度は二人してふふっと吹き出した。
「ほらな。好きになるのって理屈じゃねぇんだよ。何か分かんないけど一緒にいたい。それが恋ってもんなんじゃねーの」
「あはは。高志、恋愛漫画の読みすぎだよ」
何で好きなのか、どこがいいのか、一言じゃ言い表せないけど、なんか好き。
それでいいのかもしれないな。
高志といると、いろんな感情が沸き起こっちゃって面倒臭いけど、高志と出会う前の人生の倍以上、幸せだ。
周りに見られないように、ベンチの上に置いた手をこっそり繋いで、指を絡ませた。
俺と高志の間に、七色の虹が架かった。
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