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第4話
お題「俺のどこがいいの」「虹」「泣きそうな顔」
目の前の高志は、泣きそうな顔をしている。
醜い嫉妬と劣等感から、わざと酷い言葉を浴びせてしまったからだ。
「俺のどこが良かったのか全然分からないよ」と。
* * *
最近、高志の様子が変だった。
同じクラスだから一緒に行動を共にしているといえばしてるんだけど、休み時間中もお昼中も、俺の目の前でずっとスマホを眺めているし、放課後は一緒に帰るのが当たり前だったのに、バイトが無い日でも用事があるからと言ってすぐに帰ってしまう。
俺といるの、そんなにつまらない?
それとも、俺と付き合うのもう飽きた?
近くにいるのに心は随分と遠いところにいる気がしてモヤモヤしていた。
訊けばいいのに、高志を目の前にすると、何も言えなくなってしまう。
いや、怖いんだ。もし本当に飽きられていて、別れようだなんてその口から出てきたらどうしようって。
言いたいことがあるならハッキリ言え、と高志にたまに怒られる時がある。
俺は過去のトラウマから、自分の気持ちを人に伝えるのがどうしても苦手だ。だからいつも逃げることしか出来ない。
寂しいよ、と一言伝えれば良いだけなのかもしれない。
それがずっと言えないまま、一週間が過ぎた頃、とうとう俺の気持ちが爆発してしまった。
ある日の放課後、いつもみたいに用事があると言って、高志は俺を置いて教室を後にした。
笑顔で俺に手を振る高志の後ろ姿を見ながら、視線を床に落とし、ドボドボと校舎を出て、近くのショッピングモールに足を運んだ。特に意味なんて無かった。真っ直ぐ家に帰る気になれなくて、ただフラフラとウィンドウショッピングをして気を紛らわせようとしたのだ。
だけど俺は見てしまったんだ。
高志が男と二人で楽しそうに歩いてる所を。
俺が高志を見間違える訳が無い。
咄嗟に店の柱の影に隠れて、向こうからやってくる二人をじっと見つめた。
高志はとても楽しそうにそいつと会話していた。
相手は、高志が最近よく話しているなぁと思っていたクラスメイトの葉山だった。
高志と同じくらい背が高くて、いつも自信に満ち溢れてそうな顔をしてて、高志と同じようにクラスでは目立つ方だ。
俺みたいな冴えない奴とは真逆のタイプ。
高志と並んで歩く葉山も、とても嬉しそうに笑っていた。
ドクンドクンと心臓が鳴って、手が震えて、涙がじんわり滲んだ。
正直、お似合いだった。
本当に、俺とは別れるつもりなのか。
自分は俺にいつも思ってる事をちゃんと言えって言うくせに、高志だって俺に隠れてこんな事をしてるじゃないか。
すれ違った瞬間、葉山が俺に気付いて「天翔」と声を掛けてきてしまった。
高志もこちらを振り向き、目が合う。
高志が俺の名を呼ぶ前に、俺はすぐに走り出したが、あっという間に捕まってしまった。
「未樹、違うんだよ、これは」
捕えられた手首をブンブン振って、手を振り払おうとしたけど全然ダメだった。
力も無くて、ちゃんと訊ける勇気も無くて、情けなくって、俺って一体何なんだろうって悔しくって泣けてきた。
葉山もいるのに、泣いたりしたら恥ずかしいのに、涙の雫が床にポタッと落ちてしまった。俯く事しか出来ない。
「あー……葉山ごめん、先帰って。今日はありがとう」
高志は葉山にそう言って、俺の腕を引いて歩き出した。ショッピングモールを出てすぐの公園に連れて行かれて、遊具から離れた所にあるベンチに座らされた。
途端に高志が言い訳をし始めたからウンザリした。
「未樹、誤解してるかもしれないけど、俺は」
「いいよもう。聞きたくない」
鼻をすすって、高志をキッと睨んだ。
「ちゃんとハッキリ言えばいいのに。お前にはもう興味無いんだって。別れるつもりなんだって……」
言葉に出してしまうとかなり辛い。
高志と別れるだなんて絶対嫌だけど、高志がそう思っているならその気持ちを優先したい。大好きだから。だけど嫌だ。
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