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第3話

お題「子供扱い」「部屋着」 高志の部屋はいつ来ても汚い。 飲みかけのコーラのペットボトルが二、三本は床に転がっているし、クローゼットがあるのにカーテンレールに制服がかかっているし、テーブルの上は漫画本や教科書がごちゃ混ぜに置いてあって、今にも雪崩を起こしそうだ。 付き合いたての頃は急にお邪魔したとしても、きちんと片付いていたんだけどな。 半年も過ぎれば気持ちに余裕も出来てたるんでくるんだろう。 俺に対して気を許してるっていう証拠なのだろうけど、この泥棒に入られた後のような部屋を目の当たりにすると、なんとも複雑な気分になる。 「だからさ、何で片付けとかないの?俺、今日ちゃんと泊まるって言ってあったよね?」 ベッドの上で散乱している洋服を手に取りながら文句を言うと、高志は呑気に笑っていた。 「しょうがねぇんだよ。昨日バイトだったし」 「一週間前から言ってあったよ!もうっ、こんな部屋じゃちっとも落ち着けないじゃん」 「未樹チャンが綺麗好きすぎんの」 たしかに俺は潔癖症の節があるけど、高志はちょっと酷い方だと思う。 高志はテーブルの上の本をかき集めると、乱雑に床の上に置いた。 「はい、これでいい?」 「駄目!本は本棚に!」 向きも大きさも全無視な入れ方をしている本棚の中身も取り出して、綺麗に並べていく。 高志は「頑張れー」と応援するだけで、片付け魔の俺の手伝いをするのを早々に諦めたようだ。 高志はさっき俺が綺麗に畳んだ服を手に取ると、こちらに背を向けて、いきなり上半身裸になったからドキッとした。 無駄な肉は一切無く、筋肉が鍛え上げられたようなたくましい背中。 肩甲骨が綺麗に浮き出ていて、天使の羽のようにも見える。 ――俺はこの間、この人に抱かれた。 不安と期待を入り交じらせながら、高志とはじめての夜を過ごした。 あの瞬間(とき)は一生忘れないと思う。 とても大切で濃厚な時間。 手を止めてボーッと見とれていたら、視線に気付いた高志は不敵な笑みを浮かべて腰に手を当てた。 「いい身体してる?」 「……はやく服着たら」 素っ気なく言って作業に戻ると、高志は「ちぇっ」と小さく言って、いそいそと部屋着に着替えた。 「はいこれ、未樹の分な」 「え?」 片付けを終えて一段落した後、白のスウェットの上下を差し出されたから、俺は首を横に振った。 「いいよ、ちゃんと自分の分持ってきたから」 「はぁ?持って来なくていいってこの前も言ったじゃん。遠慮してねぇで、俺のやつ着ればいいんだよ」 「……」 高志のはサイズが大きくて。 あと言いにくいけど、あちこち毛玉がついてるし、ちょっと…… なんて言ったらショックを受けるだろうから言わないけど。 「あ、ありがとう。じゃあ借りようかな」 満面の笑みで手渡す高志に礼を言って、部屋の隅に行ってTシャツの裾に両手を掛けた。 臍の上まで持ち上げた時、背後から視線を感じて振り向くと、興味津々にこちらをじっと見つめる高志と目があった。 「あっち向いてて」 ムッとしながら言うと、高志は渋々背中を向ける。 俺は一気に洋服を剥ぎ取って、胸元にスポーツブランドのロゴが入ったスウェットパーカーから頭を出し、腕を通す。 ……着てみると、予想以上に大きい。 腕を精一杯伸ばしても、手が外気に触れるまでにはまだ距離がある。 ズボンも同様だった。 ゴムが伸びきったそれは、俺の胴囲よりもはるかに幅があるし、少し腰を捻ればすぐにずり落ちてくる。 両手でズボンの布をたくし上げながら俺は振り返った。 「ねぇ、やっぱりおっきいし悪いからいいよ。なんかだらしな……」 俺の言葉は、高志の急なハグによって遮られる。 肩口に鼻と口を押し付ける形になった俺は、顔を振って慌てて息を吸った。 「何、何?」 「いいよ……いい」 「え……本当?大丈夫かな?」 「いい。すごくいい。なんかガキみたいで可愛いし、そそられる」 「はぁ?」 ガキみたいって、俺、子供扱いされてる? 高志は俺の首元に鼻先をグリグリと擦り付けてくる。ついでに硬くなってる下半身もグリグリと擦り付けてくるから慌てて胸を押した。 「高志!もうっ変態!」 「もう持ってくんなよ?泊まる時は、俺の部屋着にすること。約束ね」 「――……」 視線を宙に彷徨わせながら、耳まで熱く火照った自分の顔をどうか見られませんようにと思いながら、俺もおずおずと高志の腰に手を回した。

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