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第7話
エンジン音が響く中、カーステレオからはアニソンが流れている。
いつもは爆音でアニメ映像と一緒に流しているのだが、流石に今は音量を絞って微かに聞こえる程度にしている。
命がさっきから、ちらちらと不安そうに俺を盗み見ているのを感じているが俺は気付かない振りをしてそのまま運転を続ける。
ふとジャケットの裾が微かに引っ張られるような感覚に、信号で止まったときそれを盗み見ると命が俺のジャケットを小さな手で握っていた。
俺はほっこりするのと同時に、この時ほど車がミッション仕様なのを恨んだことは無い。
無駄に大きく、使いにくいこの車を別の物に変えようと強く心に決めた。
「ついたよ…」
自宅マンションに着き、地下の駐車場に車を停めると俺は命を見やる。
命は車の外の様子をきょろきょろとしばらく伺ったかと思うと俺をじっと見つめてくる。
「命?」
そんな命の顔を覗きこんでやると、命の瞳にはまたうっすらと水の膜が張りぽろぽろと涙を溢す。
俺の運転の邪魔にならないように必死に我慢していたのだろう。
シートベルトを外してやり身体を少しずらして命に手を伸ばし、抱き上げてやる。
「パパ…あいたかったよぉ」
くすんくすんと涙を溢す命を抱き締め少し落ち着くように頭を撫でてやる。
運転席では狭いので部屋に帰ろうと命の頭に手を添えて頭をぶつけないように車から降りる。
きちんと抱き直し落ちないように尻の下で腕を固定した。
改めて感じるのは、命の身体は羽根のように軽く小さかった。
サイドボードに乗せていた橋羽から渡された封筒を手に取ると、リモコンで車をロックして部屋へ急ぐ。
「命…泣くな…俺はここに居るから」
「ううっ、うん…パパァ…んっ、ちゅっ」
俺の部屋はタワーマンションの最上階なので、エレベーターに乗っている時間ももどかしい。
エレベーターが部屋が2つしかない最上階のフロアに到着した。
俺は左側の部屋に入ると、胸に抱いている命に深いキスをしてやる。
命は嫌がる素振りも見せずに小さな舌で俺の舌に必死に表面を擦り付けて俺の唾液を飲み込む。
「ん。パパの匂いだ…」
口を離すと、唾液が糸を引く。
命は俺の首筋に顔を埋めてスンスンと鼻を鳴らしている。
俺も命の頭に顔を埋めると少し甘い香りと共にシャンプーの香りがする。
靴を脱いで部屋の中を進みリビングまで来た。
「ふあぁぁぁぁ」
「え?命…感じる所変わってないんだ」
頭を撫でていた手を耳の方にずらした所で命から気の抜けた声があがる。
俺は楽しくなったので耳の縁から耳たぶ、耳の穴に指を入れたり耳を撫でて遊んだ後、首筋を撫でてやる。
「だめ!」
命の着ている水色の襟が可愛いセーラー服風のパーカーのファスナーを下ろそうとした所で命が俺の手を止める。
「どうした?怖くなったか?」
「ちがう!ちがうの!ぼく…ぼくね…」
俺が優しく聞いてやると命は必死に首を横に振りまた涙を流す。
俺は性急過ぎたかと反省して命を抱いたまま近くのソファーに腰掛け命が泣き止むのを待った。
「パパ…ううっ…ぐずっぐす」
俺の胸にすがりつきながら必死に俺のYシャツを握りしめて泣く命の背中を擦りながらじわじわと命が帰って来たのを実感する。
泣いたせいで上がった体温が、まだ命と生活をしていた頃を思い出させる。
「ぼく…ぼく…」
「ゆっくりでいいよ。今まで沢山待ったからね」
「んー。ぼくっ…あの…あのねっ」
命が俺の言葉にしゃくりあげながら必死に首にしがみついてきた。
俺は命の熱と匂いを感じながらじっと待つ。
「ぼく…パパと居た時と違って、汚いの」
「汚い?」
必死に訴える命に俺は落ち着かせるように背中をとんとん叩いてやるとひっ、ひっとしゃくりあげがらも言葉を続けるために深呼吸をしている。
一瞬視線をさ迷わせていたが、ぐっと息を飲んだを感じたので俺も気付かれない様に姿勢を正した。
「ひっく。ぼくね…お金を返すために…お仕事してたの」
意を決したその言葉に俺は察しがついてしまい、押し黙る。
俺の反応に命は更に顔をくしゃくしゃにして俯く。
「パパごめんなさい…ぼくは魔法が使えないから自分を治すこともできなくて…」
命は混乱しているのか意味の分からないことを口走り始めた。
確かに一緒に住んでいる頃はコスプレをさせたり変身遊びなんてのもしていた。
そういえば魔法は誰でも使えると昔言った気がする。
その事を言っているのかもしれないと結論をつけて、俺は姿勢を入れ替えて命をソファーに押し倒した。
「えっ?やだ…パパやだ!」
俺は抵抗する命を無視してパーカーと中のTシャツを無理矢理奪い去る。
命の白い肌が露になると俺は絶句してしまう。
「パパごめんなさい…ごめんなさい」
命は泣きながら俺に必死に謝ってくる。
「命…ごめん」
「パパ…何でパパがごめんなさいするの?命が汚いから?」
俺が命の身体を掻き抱くと、命の身体がビクッと震える。
その後にまたぐすぐすという鼻を啜る音が部屋に響く。
命の背中には古い傷が点在していた。
肩口には大きな傷跡があり、肩甲骨の回りにはタバコを押し付けられたであろう丸い火傷の跡が無数にある。
その下のには腰にかけて小さな傷跡が並んでいた。
「みんな…ぼくの背中を見ると沢山叩いてくるの。優しかった人も急に意地悪になるの…パパもこんなぼくをみたくないでしょ」
命のその言葉に、俺は怒りで眩暈がする。
目の前に命が居るのに視界がぐにゃぐにゃと歪み、景色が真っ赤に見えてくる。
「え?パ…あっ、んんっ」
俺は命の唇を奪い、舌を絡める。
俺が与える刺激に命がぴくんぴくんと震えだした。
口の中を舐めまわし、舌をはんで小さな歯をなぞってやると面白い様に反応が返ってくる。
「ふぁ…」
「俺は命が帰ってきてくれただけで嬉しい」
俺はその言葉をなんとか絞り出すことが精一杯だった。
その言葉に命は顔をくしゃくしゃにして俺に抱きついた。
「ぼくも!ぼくもパパにずっと会いたかった!」
「うん…」
肩口の傷跡にキスをしながら、全身を見るためにゆっくりズボンも脱がしていく。
キスをしながらハイソックスを脱がし、ちゅっ、ちゅっとリップ音をたてて傷跡を追っていく。
「これは…」
脹ら脛に小さな傷を発見して俺は動きが止まる。
両方の足首の少し上の所に縦長の傷跡があり、俺はそれに見覚えがあった。
「それ…足が凄く痛くなって歩けなくなっちゃったの」
「そうか…今はどうだ?」
「あさまさんや、はしばねさんと沢山練習したからいっぱいは無理だけど歩けるよ」
命は何でも無いように言うが、この傷は足の靭帯を治療したときのものだ。
足の靭帯を切断することで逃亡を防ぐので、兄達も良く使うと言っていた。
しかし、靭帯は回復していくので本当に歩けなくするには靭帯を取り除くのだと言っていた。
今は歩ける様だが、その時の事を考えるとまた沸々と怒りが込み上げてくる。
「大丈夫…今は気持ちの良いことだけしような」
「うん。パパ」
再び肩口の傷跡に口付けてやり、顔を覗きこむと命は目の端を赤くしながら嬉しそうに笑った。
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