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第9話

命を丹念に洗ってから湯船に入れてやってその間に自分も軽く汗を流す。 命の身体が温まったので水気を拭いてリビングに戻ってきた。 命を抱いたままソファーに座り、橋羽に渡された封筒を手にする。 分厚い封筒の中には、色々な書類の束と携帯電話の説明書や薬の袋が入っていた。 最初に見た請求書の後ろの紙は振込先と期日が書かれており俺は小さく溜め息をつく。 「しっかりしていると言うか…何と言うか」 俺はそれを机の上に放り投げ、まだ湿っている命の髪の毛を弄ぶ。 他の書類を見ていくと巽が言っていた通り戸籍の写しや、住民票が入っていた。 信じられない話だが、登録住所は俺が今住んでいるこのマンションの一室になっていることに用意周到さを感じる。 はじめからこちらの行動はお見通しと言うことだ。 流石の俺でも舌を巻く手際の良さである。 「薬か…」 薬の袋を取り上げると種類の違う薬が4種類ほど出てくる。 中に一緒に入っていた処方箋を見ると全部が精神安定剤だった。 それを見てしまうと、やはり自責の念に胸がチクチクと痛む。 「ん~。ひっ!ひゅっ、あっ、ひっひゅー。かはっ!!」 「おい!命?命!」 命がもぞもぞと身動ぎしだすと、急に身体が硬直して呼吸が荒くなる。 俺は慌てて命を揺さぶり起こす。 「パ、パ…」 「命?!」 意識を取り戻した命は咳き込みながら俺に手を伸ばす。 伸ばされた手を握ると、命はビクッと身体を揺らし俺の顔を見る。 視点の合っていなかった瞳が俺で焦点を結ぶと水が決壊した様に涙が頬を濡らす。 「パパ…ぼく…本当に帰ってきた?これ夢じゃないの?」 ぐずぐず鼻を鳴らしながら俺に必死に確認してくる命を俺は更に強く抱き寄せてやる。 「パパごめんなさい…ぼく…」 「気にしなくていいよ。ぎゅってしててやるからミコミコでも見るか?」 「う…ん」 必死に取り乱した理由を話そうとする命をなだめてやり、気分を変えるために提案をしてやる。 命は一瞬ぽかんとした顔をするが、俺の言葉に嬉しそうに頷いた。 俺は命を抱いたまま趣味の部屋に向かった。 この部屋に越してきてから趣味の為だけの部屋ができた。 ミコミコとは俺が命と一緒に暮らしていた時に深夜に放映していた『魔法の妖精マジカルミコミコ』というアニメだ。 はじめはエロゲ原作のアニメだったのだが、子供向けにもリメイクされ“ミコミコ”のシリーズはその後人気が出て次々と続編が発表された。 そのシリーズのDVDボックスが棚に並んでいるのに命は興味深々だ。 “ミコミコ”の主人公は“鏡 美琴(かがみ みこと)”という14歳の女の子で、そのキャラクターの名前をそのままつけたのが目の前に居る命だ。 名前をつけたときは字の事まで深く考えて居なかったが、書類の字を見ると巽が考えたのかもしれない。 「ミコミコいっぱいだぁ!!お人形もある!」 さっきの事がまるで嘘みたいに命がはしゃぎだす。 フィギュアも相変わらず集めているので部屋にはグッツも並んでいる。 最近では趣味が高じて公式からグッズのイラストの依頼まで来て俺が担当したグッズも一緒に並んでいる。 興味津々の命を抱いたままデッキにDVDをセットするとオープニングの音楽が流れ始める。 俺は命を膝に乗せて一人がけのソファーに腰をおろす。 バリッ ポテトチップスの袋を開けて食べながらDVDを見ていると本当に懐かしい気持ちになる。 折を見て命の前にポテトチップスを差し出すと命はモニターを見ながら俺の手からポリポリとゆっくり1枚食べる。 それを数回繰り返すうちに命は俺の手まで食べてしまう。 もぐもぐと動く口がこそがしい。 「ほら飲み物も飲まないとな」 モニターを凝視している命にペットボトルの水を近付けてやる。 こっそり口の中に先程封筒から出てきた薬を放り込み飲ませた。 薬を飲ませてからしばらくしてから命に声をかける。 「なぁ…命」 「なぁに?」 「薬はいつから飲んでる?」 俺の言葉にモニターを見ていた命の身体が一瞬揺れる。 まるで油が切れたロボットの様にぎこちなくこちらを振り返った命の目は困惑していた。 「おくすりは…」 モニターからは何度目かのエンディングテーマが流れている。 キャラクターがダンスしている楽しそうな映像と命の様子が凄く不釣り合いだった。 「お前の事が知りたいんだ」 そう言って優しく抱き締めてやると、命はブルブルと震えだす。 「お仕事がおわって、お店にかえるとぼく…」 俺はその恐怖が少しでも和らげばいいと腹をさすってやる。 「ぼく…お店に帰ると怖くなって…寂しくなって…何にも分からなくなるの。気が付いたらダイヤちゃんが居て、ぼくにおちゅうしゃするの」 ダイヤとはクラブと同じ店の調教師の名前だ。 俺は巽の店の闇の繋がりを見た気がした。 そして、そんな近くに居たのかと驚きが勝る。 「おちゅうしゃは痛いけど、怖いことも、寂しいこともお仕事しているときみたいに平気になるの」 「お仕事ってあいつが言っていた事か?」 命は俺の言葉にコクンと頷く。 「ぼくはお仕事をして、たつみに借りたお金を返してたの。お仕事はいろんなパ…おじさんのところに行って、おじさんがぼくとえっちな事をしてるところをケーサツの人に言うの」 俺は瞬時に美人局(つつもたせ)の一種であることに気がついた。 美人局は男女で行うことが多いが、命達“カモ”を使って標的である人物を犯罪者に仕立てあげる事もできる。 「ダイヤちゃんと、怖くなったらのむ約束なんだ」 「そうか…辛いこと聞いて悪かったな」 「んーん。これからはパパと一緒に居られるんでしょ?」 命の言葉に俺が頷いてやると、命は振り返って少しのびあがるので俺は少し屈んで唇を合わせてやる。 その後唇を離すと、いたずらっぽく小さく舌をペロリと出す。 「おくすりはいやだけど、パパと居るためにがんばるね」 その一言に、俺は今度は命の口を覆い舌を絡めとる。 「んあっ、パパァ…むっ」 くちゅくちゅと舌を合わせる水音が部屋に響く。 バスタオルを巻いているだけの命の肩から包んでいたバスタオルがずり下がり、傷跡の残る肩が露になる。 肌は興奮からなのか、風呂に入って体温が上がったからか赤みがかり傷跡も赤みを増す。 「命が怖くなくなるまで今日は抱いてやらないとだめだな…」 「えあ?」 俺はその傷跡が見えたせいで、怒りがまた沸々と沸き上がってくるのを感じた。 自分以外の付けた跡が命の白い肌を支配し、つけられた時のことを想像するとこんな子供がどんな表情をするのか考えただけでも下半身に熱が集まり興奮する。 命の言う他の男もそうだったのであろうと易々と想像ができた。 他の男の気持ちが分かってしまった嫌悪感もあるが、“命に酷いことをしたい”この衝動はどうしても止められなかった。

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