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第9話

あのあと天野先輩は、けろりと何事も無かったような顔をして生徒会室を出ていった。 荷物は置いたままだったから、きっとまだ生徒会の仕事をしたのだろう。 おれは天野先輩が帰ってくる前にと、慌てて生徒会室を後にして家に帰った。 自分の部屋のベッドに寝転がって天野先輩の意図を探る。 なんで天野先輩、おれをペットにするなんて…… 考えれば考えるほどわからない。 それに、おれは、好きな人からあんなことを言われて、平常心を保っているのが不思議なほど動揺している。 ────半年前の入学式。 あの日、生徒会長の挨拶で初めて天野先輩を見た。 凛とした姿と声。 無駄のない滑らかで綺麗な動き。 思わず目を奪われた。 天野先輩は、式が終わったあとも、会場の出口に立って、入学者に自ら祝の言葉とともに、ぜひ生徒会へ。と書かれた紙を配っていた。 仕事が出来てかっこよくて。 そんな天野先輩をもっと知りたくなったおれは、迷うことなく生徒会に入った。 だけどそこにいたのは、周りには完璧の気配りをして、その反動とでもいうかのように自分のことはまったくな天野先輩だった。 ギャップ、というのだろうか。 そういうのを近くで見ているうちに、愛しくて、胸がきゅんと甘くなって、気づいたら好きになっていた。 ……そんな人から、「ペットになれ」だなんて言われたんだ。 信じられないし、出来ることなら拒否したかった。 そもそも、天野先輩があんな……あんな…… そこまで考えてボッと顔が熱くなる。 「…考えちゃだめだ」 一生の不覚。 …あれがなければ、天野先輩にあんなこと言われなかったのかな…。 自己嫌悪に陥ったおれは、父さんの、「晩御飯できたぞー」という声を無視して、頭から布団をかぶって眠りについた。

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