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煽られる

 頭のどこかでは冷静なのに、実際は必死でやつの唇に食らいつく。  やわらかくて熱くて気持ちいい舌の弾力の肉々しさを味わいながら、相手の呼吸を奪うようなキスを、夢中になってした。  いい歳こいて、余裕のない青くさい口付けだと、自嘲する暇もない。 「あっ、あぅ……んッ、まって、」 「なに、」 「んっ、ァ、やぁ……」  何か話したそうにしているやつを放って口付けていたのだが、急にぐっと強い力で胸を押されて、油断していたのもあってか、ちょっとよろける。  一歩後ろに足をついた俺に、やつはアルコールだけではないだろう真っ赤な顔で、泣きそうにこちらを見ていた。  それが扇情的に見えた俺は、きっともうかなり酔っているに違いない。 「乗り気だったくせに、なんだよ」 「……ご、ごめん」 「はぁ……戻るぞ。タクシー呼んでるし」 ……冷静に、ならなきゃいけない。  突き飛ばされて苛立ったけど、それは同時に俺を我に返らせてくれた。  危ない。まじ、止まんなくなるところだった。  だからと言って気まずくなるのは嫌だから、唾液で濡れた唇を手の甲で乱暴に拭って、やつに背を向ける。 「っう、ぁ、ま、て……!」  しかしこいつは俺を離す気がないのか、酔っ払いの加減を知らない力で腕を掴まれて。 「っう、わ、いって……!」 「まだ、足り、ない……っ」  腕と肩を捕らえられ、勢いよくドアに押さえつけられる。

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