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⑮
そんなこんなで、目の前には魔王城。何とか生きてた僕、すごい。
魔王領に入ってからのサクサク加減が半端なかった。魔王領には村も街もなかったからだ。
それでも勇者様の身の回りの世話は当然僕の仕事。
魔王領に入る前の最果ての村で買い占めた非常食が口に合わなかったのか、あんまり食欲のない勇者様にお手製ジャーキーを渡すと、「それ寄越せ」って全部取られた。僕の分なくなったけど、「まあまあだな」って言いながらも食べてくれる勇者様を見て、嬉しくて涙が出た。
ジャーキーを手に入れ、僕のことがどうでもよくなったのか、置いていく勢いで歩を進める勇者様御一行。僕はひたすら食い下がった。
『勇者殿とするときは体力が足りなくて困るんじゃないか。歴代勇者は絶倫だそうだからな』
と、余計なことを暴露してきたエルフのイケメン族長から貰った、体力を回復させる有難い秘薬のおかげで脱落せずに済んでる。勇者様とアレをすることはないと思うから、ここで消費せずしてどこで消費する!、ってね。
女性陣の舌打ちを受けながらも、僕は本当に頑張った。
勇者様と過ごせる最後の夜。
勇者様御一行は焚火を囲んでこれからの話をしていた。
「戻るに決まってるだろ」
「そうね」
「家族がいるものね」
「恋人も、だったか」
「ハァ…」
勇者様は元の世界に戻ることをすでに決めているらしい。女性陣はしんみりしている。きっと勇者様の絶倫テクニックの虜なんだろうな。
でも恋人いるなんて初めて聞いた。そっか恋人いるんだ。じゃあ、ちゃんと戻らないと。チクリと胸に痛みが走る。
「元の世界に戻っても、私たちの事忘れないでね」
「………ああ」
く、暗い…。
こっちに残ることを少し期待してたんだろうけど、勇者様は初めからこっちの世界には興味がなかった。
たまにボーっと空を眺めてる時があったし、早く終わらせて帰りたいって言う思いを感じることもあった。中盤を越えてから、魔物を見つけると、我先にと勇者様が倒しにかかっていたから。多分早くレベルを上げたかったんだと思う。よく見てたから、わかるのかもしれない。
そっか。魔王を倒せば、終わりなんだ。
勇者様が魔王に負ける気がしない。女性陣もいるからそこは全く心配ない。
神官様の立てたスケジュール通り、3ヶ月でここまで来た。勇者様を召喚するまでの2ヶ月を含めてたった5ヶ月。歴代最短記録だ。きっと報酬も弾んでくれる。
そう、いっぱい報酬貰って、自分で家事だってしなくて良くなって、一生遊んで暮らせるんだ。
『ノロマ』って蹴り飛ばされることも、『役立たず』って木の陰に隠れているのを罵られることも、『キモイ』って勇者様を見つめてると鬱陶しそうにされるのも、全部なくなる。
命がけの旅を終えて、元の生活に戻ることは嬉しいことなのに。
「勇者様…」
ギュッて胸元を掴んだ。苦しくて苦しくて仕方ないんだ。
だって、勇者様がいなかったら、僕は生きていなかったから。
蹴り飛ばしてくれたから、敵の攻撃を避けられた。
声をかけてくれたから、森に置き去りにされることもなかった。
鬱陶しそうにされたから、よそ見が減ってこけることも少なくなった。
勇者様が僕を助けるつもりがなかったとしても、僕は助けられてた。
それに気づいた時、もう好きで好きで仕方なくなってた。僕、愛してるんだ、勇者様の事。誰よりも勇者様を愛している自信がある。
最後まで僕は勇者様の力にはなれなかったかもしれない。でも、勇者様と過ごせて、勇者様のお世話をできて、本当に嬉しかった。幸せだった。
だから、魔王を倒して、勇者様を元の世界に送らないと。恋人の待つ元の世界に。
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