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「おまえは?」
「へっ?」
「美容師」
恐らく、どうして美容師になりたいと思ったのかということを聞きたいのだろう。
美容師になったきっかけか。
「なんか……髪フェチ?」
「……フェチ?」
「うん。髪切ったり、触ったり、洗ったりするの好きだからかな。美容師が一番自分に合ってると思った」
今でも美容師になってよかったと思っている。実際いろんな人と会うのは楽しいし、髪を切ったあとやカラーリングしたあとの嬉しそうな顔を見るのがとても嬉しい。
ありがちだが、自分まで嬉しくなってくるのだ。
「……うん。そんな感じかな」
それらを話すと、稜が橙里の方に顔を向けてきた。
そのまま近付いてきて、くちびるに柔らかいものが触れる。稜のものだ。
「……え? なんっ……」
今、そういう雰囲気だったか?
稜の顔を瞬きしながら見つめていると、稜が珍しくふっと笑う。
「橙里らしいじゃん」
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