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「……」 ふと稜のことを見ると見たことがないくらいに冷たい目をして女を見つめていた。 それなのにその女は怯むことなく、稜の腕に巻きついていく。 「やだあ、稜くんだあ! 元気? やっぱりかっこいいーっ」 本当に三十を超えているのかと思うほどに気持ち悪い声、媚びたような仕草。典型的なぶりっ子というやつだ。 唯一嫌う人物だと言っても過言ではないかもしれない。それほどに、橙里はこの女が嫌だった。 「……離れろ」 「ねえねえ、覚えてる? わたしが転んだとき、助けてくれたの!」 喜々とした様子でそう言う彼女は、目に狂気というものがあるような気がした。 ずっと近くにいたからわかる。稜は、転んだ人間がいたとしても橙里以外の人間は絶対に助けない。 見たことがあるのはお年寄りが稜にぶつかってしまったときに助けていたことくらいだ。稜が女を助けるなんてことは絶対にしないのに。

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