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「離れろっていうのが聞こえなかったか?」
「あ、橙里くんだー。相変わらず綺麗な顔してるねっ」
「……は?」
そんなこと思ってもいないくせに、余裕で言うなんて恐ろしすぎる。
明らかに棒読みで、感情なんて込めていない。
次に放った台詞が、さらに橙里を硬直させる。
「ねえねえ稜くん。わたしたちやり直さない? また優しく抱いてほしーな……」
「……」
この女は、稜に抱かれている。
橙里はこの女を抱くことだけはしなかった。でも、快感を求めて稜の元に行ったのだ。稜は来る者拒まずで、抱いて欲しいと言えば抱くから。
──あ、なんか泣きそ。
どうして泣きそうなのか全くわからないが、とにかくなにかを発散したかった。自分が知らない稜がどんどん出てくる。
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