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稜は未だに黙ったままで、うんともすんとも言わない。女をよく見てみると、胸を押し付けていた。 醜い。その単語が脳内を埋め尽くす。 どうして、稜の知らないところを知ってしまうとこんなにも苛立ちで埋め尽くされてしまうのだろうか。 口を手で覆っていると、稜が言葉を発した。 「抱いた覚えなんてねえけどな」 「……なんで……? なんで覚えてないの?」 「は? 寧ろ覚えてんの、おまえ。そんな十何年も前のこと。気持ちわりぃな」 稜なら言いかねない言葉だが、彼女からしたらきつかったらしい。目をうるうるとさせ、目尻をくっと上げた。 稜の顔を平手打ちしようとしたのか、手を振り上げた。 それを阻止しようと、慌てて手を出すとその前に稜が女の手首を掴む。 女には出せない力で掴んでいるのか、かなり女が辛そうな顔をしていた。それを見て稜が一言。 「……汚ねえな」 そう言い放ってから稜が歩き出した。橙里はそれについていけず、その場に立ち尽くす。すると、女が分厚い下くちびるをぎゅっと噛み、悔しそうに顔を歪めた。

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