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「お通夜には参加すんの?」 「しない。だって、もしかしたら稜くんと橙里くんが来てるかもしれないって思って来ただけだし。このまま帰るよ」 「あ、そう」 ならば、このまま橙里が稜のあとを追えばいいか。 そう思っていると、女が口を開く。 「……橙里くん」 「あ?」 「わたし、稜くんに優しく抱かれたことなんてない。乱暴で、痛かった。ごめんね、あれ全部演技だったんだ」 「……はい?」 「少しだけ気になることがあって。でも、もう全部わかったから大丈夫。あの人は学生時代からなにも変わってないって」 「どういうこと?」 「それはわたしの口からは言えない。わかるのは、あなたのことを本当に大事にしてるってだけ」 その顔は一切嫌味はなく、学生時代と変わったと思う。大人になった。本当にそれだけだ。 ──稜が、僕のことを大事に。 本当にそうならば、嬉しい。それはずっと望んでいたことで、叶わないものだったから。

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