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また稜のことを思い出してしまった。 橙里の前髪があるから稜が橙里のことを好きになってくれるわけではないのに、何故こんなことを思ってしまうのだろう。 まるで、恋する乙女のようだ。 「……いや、切ってもいいけど」 「や、いいよ。百川さんは前髪ある方が美人だし。終わりー」 てるてる坊主状態になっている橙里のことを解放し、首に巻いてある淡いブルーのタオルも外される。 鏡を見てみると、やけにさっぱりした自分が映っていた。 かなりの変貌ぶりに、瀬島と戸園も橙里の顔を覗き込んできた。 「うわーももちゃんかわいい」 「べっぴんさんになりましたなあ」 確かに、長い髪よりこっちの方が自分もいいと思う。首のあたりがさっぱりして少しスースーするが、髪を切ったときならではの感覚だろう。 ──我ながら、三十路には見えない。 「写真撮っていい? 撮るよー」 「はっ? おい」 瀬島にパシャリと撮られてしまった。かなりしかめっ面をしているだろうと思い画面を確認すると、そこにはかなり自然な表情をした自分がいた。

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