387 / 527

[21]-4

矢本が大きくため息を吐いた。正直、好かれてはないんだろうなと思う。 でも、どうしても一つだけ言いたいことがあった。 「おまえさあ、瀬島さんのこと好きだろ」 「……っ!」 「先に言っとくと、僕はあの人のことはなんとも思ってない。ただ尊敬してるだけ」 わざと矢本の顔を見ないで告げた。矢本が息を飲む気配がする。 まだ若いから、周りのことがよく見えていないのかもしれない。そんな矢本に言いたい。 「思ったんだろ? 僕は稜のことが好きなはずなのに、どうして瀬島さんはまだ僕を引き摺ってるんだろうって」 「……」 「歳を重ねるたびに、期待するんだよ。もしかしたら恋はすぐ終わるかもって。自分に靡くかもって」 「……」 「それと同時に、自分のことを慕ってくれる人間に失望する。捨てられる恐怖を既に味わってるから」 それは橙里も同じだった。 期待するだけ裏切られたときのショックは大きい。歳を重ねていくうちに嫌でも実感してしまうのだ。

ともだちにシェアしよう!