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「……百川さん」
「ん?」
「あんた、なんでそういうとこでは男前なんだよ。あんな鈍感な癖に」
「はっ、よく言う」
心底馬鹿にしているような言い方をされるも、不思議と苛立ちは湧いてこない。
──おまえなら、守れる。
「まあ、百川さんあの人のこと振ったんだもんね」
「……否定は出来ないな」
「じゃあ、あの人を幸せにする立場は俺が貰っていい?」
「いいんじゃねえの? 僕の代わりにな」
そこで初めて矢本の顔を見る。やや茶色がかった矢本の瞳は決意に満ち溢れていた。
プライドが高い分、負けず嫌いで真っ直ぐだとやっと知った。
「いーつき」
「なに?」
「おまえなら出来るよ」
自分より高い位置にある髪をくしゃっと掴む。案外さらさらしていた。
嫌がるかと思ってたのに、矢本も橙里の頭を触ってきた。その手つきは稜とは全く違う。なにが違うのかは説明出来ない。でも、なにかが違うのだ。
やはり、思う。
稜じゃないとだめだ。
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