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序章
ゥゥゥウウウウウウウゥゥゥ…
カンカンカン───!
『そっちはどうや!?』
『もうあかん!火が強すぎて抜けられへん!』
『消防車は⁉︎救急車はどないなっとんねん!』
『助けて!子どもがまだ中に……!』
けたたましく鳴るサイレン。逃げ惑う人々の声。
遠くでそれらの音はしているのか、それとも俺の意識が遠のいているのか。
身動きのとれない身体はそのままに目だけを動かして周りを見れば、火と煙と瓦礫ばかり。
煙のせいか息を吸うのも目を開けるのも痛いから再び俺は目を閉じ顔を伏せた。
「抜け道見つけたで!こっちから避難できる、早よせな火が回る!」
そんな声と共に瓦礫を踏み分ける音が段々と近づいてきて、
「おい!兄ちゃん!大丈夫か!?早よ逃げるで!」
今までよりも鮮明にその声は聞こえて、顔を上げる。
「動け、ないんです。瓦礫が…」
「おい!ちょっと待ってくれ!」
俺のか細い声を聞いた男の人は、通りかかる人を呼び止めてくれる。
「兄ちゃん瓦礫で足挟まれて動けんみたいや、血もでとる…手伝ってくれ!」
「よし、分かった、のけるで!!せーのっ!!」
2人が3人に、3人が4人に…どんどん俺を助けてくれる人は増えていった。それでも俺の上に乗る瓦礫はびくともしない。
もう一回や、せーのっ!
その声が聞こえたとほぼ同時に、後ろの方から爆発音がして、熱と煙が先程よりも濃くなった。
「お前ら!なにやっとんねん!もう火に囲まれよるぞ!!早よこい!!」
そんな声が遠くから聞こえて、
「あかん、もう無理や…」
「兄ちゃん…ごめん、ほんまごめんな…許してくれ…」
そう言って、男の人たちは泣きそうな顔で頭を下げて走ってゆく。
そして最後に残った男の人は、持っていた水の入ったペットボトルを俺の手に握らせた。
「兄ちゃんこれ…、喉渇くやろ、熱いやろ…、これっ、……持っとき…っ、ごめんっ…ごめんなっ……」
ポタリとその人から落ちてきた涙は、俺の手のひらに落ちて、熱で乾く頃にはもう辺りには誰もいなかった────。
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