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嵐の前の静けさ 1
呑み屋が立ち並び多くの人で賑わう街。
少し背の低い俺は背伸びをして待ち合わせ相手を探していた。
「おーい!タスク!こっちこっち!」
「あ、いた。」
よく通る声とガタイのいい身体の主を見つけて苦笑いをする。周りの視線が奴と俺を交互に行き交っているのが分かったからだ。
「待った?」
「ううん、今来たところ。相変わらず広彰(ひろあき)は見つけやすいな。ちょっと恥ずかしいけど」
「えっ、なんで⁉︎服装変か?それとも髪型⁉︎」
「ちがうちがう。」
あはは、と俺は笑う。
威厳のある見た目の広彰が、細かい事を気にしているのは何だか滑稽だった。
何で笑うんだよ。そう言う広彰をからかいつつ、俺たちは目的の呑み屋に入った。
*
「最っっ高!!」
新年の挨拶で乾杯をして、広彰はお手本のようにビールをぐいっと飲み干し、仕事終わりのサラリーマンのように、くぅと唸っている。そして両手でグラスを持ってちびちびビールを飲む俺を見てにかっと笑う。
「今日は新稲佑(にいなたすく)くんの進学祝いも兼ねて俺の奢りでーす!」
「えっ、いいの?もしかして酔ってる?」
「そんなにすぐに酔わないですー」
「あはは。ほんとにありがとう。嬉しい…」
俺は春から大学院に進むことになった。特に就職したいところも見つからず、なんとなくで院に行くことになっただけなのに、年末に合格通知が来たことを伝えると、広彰は自分のことのように喜んだ。そして今もこうして祝ってくれている。
素直に嬉しくてお礼を言うと、何故か広彰は顔を真っ赤にする。
さっきは冗談で言ったが、やっぱり酔っているんだろうか。
「お前…あんまそういう顔すんな…」
「え、何?」
「何もない!そういや年末年始実家帰っとったんやろ?楽しかった?」
東京の実家へはほぼ一年ぶりに帰省した。久しぶりだし、大学院合格というお土産があったからか、両親は喜んで親戚を集めた。そうなると大人たちの宴会が繰り広げられ、主役と子どもたちは置いてけぼりになり、俺は子どもたちの世話をする羽目になってしまったのだ。
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