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身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ 5
「そろそろお別れの時間です。」
そう声が聞こえても、俺は広彰から離れなかった。離れたくなかった。だって、今離れてしまったら、俺たちを囲んでいる人達が広彰の事を連れて行ってしまう事は明白なのだから。
俺は聞こえない振りをして、冷たくなって可哀想な広彰への口付けを再開する。こうして彼の頭を抱いてキスをしていれば、段々と温かくなってまた息を吹き返すかもしれない。…そうだ、諦めちゃダメなんだ。まだ可能性はゼロじゃない。
そう少し期待した矢先だった。残酷にも数人の手が広彰に伸びてくるのが見えたのは。
連れて行かれてしまう。
連れて行かないで。
「やだ……っ、やだ、よ……。」
頭を振って、強く広彰にしがみついた。
けれど俺の抵抗も虚しく、あっさりと引き剥がされてしまう。
「まって…!行かないで!!連れて行くなッ!!広彰!!ひろあき……ッ…!」
広彰を連れて行こうとする人の足を叩いてみても、引っ掻いてみても状況は変わらない。目の前の足にしがみついていたところを今度は後ろから先生に引き離され、そして抱えられた。
「…新稲くん。だめだよ…。」
「……ぁ…、」
伸ばした手は、先生に捕らわれて届くことは叶わなかった。
どんどん離れていってしまう。
「まって、ぃ、行かないでっ…。せんせい、お願いっ……、最後にするから…。」
「……っ、」
目に涙をいっぱいに溜めて、先生に懇願した。
「はやくっ…、お願いだから…!…行っちゃうっ、から…。」
遂には泣いてしまった俺を見て、先生はまた広彰のそばまで運んでくれた。
再び掛けられていた布をそっと外して、
そして、冷たい頬に両手を添えて最後の口付けをした。
「…ひろあき…、ありがとう……。」
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