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おまけ

「もう用済んだから、帰っていいよ」  ライの背中を見つめたまま、希望は動けなかった。  しばらくしてようやく起き上がれるようになった希望は、目元が赤く染まって、瞳が潤んでいる。  悲しい、寂しい。  好きな人に酷いことをされるのも冷たくされるのも辛い。鼻の奥がツキンと痛む。潤んだ瞳は今にも零れ落ちそうなほど水分を溜め込んでいた。  しかし、その全ての感情を塗り潰して、希望は。  ……っざっけんなよあの野郎!!  希望はライへの怒りで震えていた。怒りのあまり、目元が赤く染まり、目も潤んだのだ。  背中も膝も腰も、ぜんぶ痛い! ふざけんなよ馬鹿力! 無理矢理突っ込んでズコズコヤりやがって! お尻が切れちゃったらどうすんだ! 責任とって! ライさんのスケベ! 乱暴者!  希望はもはや二度と着れないであろうYシャツを脱ぎ捨てる。チョーカーも、無理に引っ張られたせいで留め具が変形してしまったのか、外すのに苦労した。  何が首輪みたい、だ! ライさんのえっち!  希望は身体に付いてしまった自分とライの精液をYシャツで乱暴に拭き取って、投げ捨てられたコンドームから床に零れてしまった精液も拭う。  確かにゴムつけてくれたけど! 俺に向かって投げ捨てるとかどういう性教育受けてんの!?  希望はふらつく身体を怒りのエネルギーで奮い立たせて、立ち上がる。足が震えるが、壁を伝ってゆっくりと動き出した。    なんとか洗面所にたどり着いた希望は、洗濯機にズボンや下着を放り投げて、スイッチを入れる。全自動の洗濯機だから、四時間もすれば乾いているはずだ。  ズボンは洗えばいいけど、上の服は替えがない……どうしよう……。  困り果ててタオルに包まって、キョロキョロと洗面所を見回して気づく。  洗濯かご。服が入っている。ライの。  ……いやでもさすがにそれは……彼シャツみたいな……?  一瞬躊躇した希望だったが、そもそも服を破いたのも、汚したのもライである。責任とってもらおう、と希望は洗濯かごからセーターを一枚取り出した。着てみると、少し大きいが、お尻まで隠れるのはありがたい。  あっ……、  希望は急に真っ赤になった。  ライさんの匂いがする……。  希望はものすごくイケない気持ちになる。それでも好奇心に勝てなくて、スンスン、とセーターの袖口に鼻を寄せてしまう。  ライはあまり匂いがしない。煙草も吸っているはずなのに、近づいてもよくわからない。けれど、抱かれるとわかる。汗ばんだ肌に密着して、抱かれて、初めて香る程度だけど、なんだかえっちでいい匂いがするのだ。フェロモンってやつなのかもしれない、などと希望は思っている。その匂いに包まれて、逞しくて大きな身体にすがり付き、ごつごつとした指に中をグチュグチュに掻き乱され、熱い掌に身体中を愛撫される。  嗅覚の刺激から、情事の最中の感覚がじわじわと内側から込み上げてきた。  いや、くるなっ! いってぇ!!  希望は自分の顔をガツンと殴った。じんじんと熱く痛みが頬に広がっていく。  ライの匂いにくらくらメロメロになってしまうところだった。危なかった。匂いまでかっこいいとか本当にふざけないでほしい。  希望は内心理不尽な文句を並べ、ふらふらとしながら洗面所を出たのだった。    ***    ライに迫られ、「ご褒美やろうか?」「俺にどうしてほしい?」と聞かれて希望は。    あ、    悪魔の誘惑だ――――!!    暗い瞳に見つめられ、滅多に見せない優しい微笑みを向けられて、希望は震え上がった。  取引したら魂持っていかれるやつだ! 絶対そうだ!! こぇえ――っ!!  怯えて心のロザリオを握りしめる。  心も身体も完全に征服されて、悪魔の魅力に負けそうだった。それでも希望は抗う。  希望にとって、愛は見返りを求めるものではない。好きな人には何でもしてあげたいし、何でも許してしまう。だけど、それと同じものを相手に求めようとは思ったことはない。ライから何かを奪うようなことはしたくなかった。ライの心はライのものだ。  そして、できることなら、その上でライに自分を選んでほしい、好きになってほしい、とほんの少しだけ願っている。    とは言え、そもそも悪魔とは取引などしてはいけないのだ。魂を持っていかれてしまう。恋に落ちた時からこの悪魔のような男に身も心も捧げてしまったのだから、これ以上はちょっと勘弁してほしい。ご褒美と聞いてときめいてしまったけれど、気を確かに持て小鳥遊希望。  それにしても、こんなに心乱す取引持ちかけてくるなんて、ほんと悪魔。悪魔の所業。 「……な、なにも…してくれなくていい、です……」  だから希望は心のロザリオを握り締めて、祈るのだ。  神様、どうか悪魔の誘惑に抗う勇気を!  声と顔がすごくいいこの悪魔からか弱き子羊をお守りください!  それにしてもかっこいいなこの悪魔! 好き!! 

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